♪俺はダメだ ダメだ ダメだ
俺は帰る 帰るマン 帰るマン
※この物語は不謹慎です。絶対に読まないでRTだけしてください。
※この物語は2年前に一度書き上げましたが作者が世間の状況とバンドメンバーへの迷惑を鑑みて発表を見送ったものの、もう何もかもどうでもよくなり加筆修正を行い発表するものです。
「急な誘いで悪かったな、明」
「構わないさ、了。しかし一体どうしたんだ。急にライブに行こうだなんて。今はライブハウスは危ないんだぞ。ニュースを見ていないのか」
暗い夜道をヘッドライトが照らしていた。
了の高級車は獰猛な獣のように唸り声を上げている。急なカーブでも全く速度を落とさない了の運転は、まるで目に見えない誰かから逃げてでもいるかのように明には見えた。
「明、お前は…悪魔の存在を信じるか?」
「悪魔だって?」
「ああ、悪魔だ。悪魔なんていやしないのさ。本当に恐ろしいのは人間の方だよ。悪魔ってのは人の心そのものなんだ」
「それって普通は物語の終盤の方に言うセリフじゃないのか」
了の運転する車は目的のライブハウスの前に止まった。
ライブハウスは想像通り、暗い森の中の古く寂れた恐ろしい洋館の地下にあった。
受付の男は顔面の殆どを入れ墨で覆われ、頭髪はほとんど生えていなかったが頭の中央に大きな釘が刺さっていた。
一言も発さない受付の男に無言で大金を払うと大量のビラとドリンクチケットを受け取った二人は重い扉を開けてフロアへと入っていった。
そこでは重低音が鳴り響き、気の狂った若者や目の虚ろなジャンキーたち、バンド女子たち、合わせて5人位が音楽に合わせて踊ったり座り込んでブツブツ言っていた。
「ライブハウスってこんなに客が少ないのか」
「平日だし、売れてないからな。今ステージに出ているのは俺の弟の友達がやっているバンドだ。」
「あれを見に来たのか」
「そうだ」
気がつくと明はすごくだるくなっていることに気づいた。
「おい、了、なんだかすごくだるくなってきたんだけど…」
「どうやら感染したようだな。それはコロナだ」
「な、なんだって?!だるいだけだぞ」
「新型コロナウイルスに感染した人は、軽症であったり、治癒する方も多いです。国内の症例では、発熱や呼吸器症状が1週間前後持続することが多く、強いだるさを訴える方が多いようです。(厚生労働省のホームページより)」
「そ、そんな…だが確かにさっき頼んだカルーアミルクの味がわからない。バンドマンがコロナを撒き散らしているというニュースは本当だったのか」
「いや、お前は在宅勤務を許されず毎日普通に電車で出勤しているだろう。ライブハウスより密度の高い空間にいたはずだ。そっちが原因だ」
「確かに每日咳き込んでいる人たちがたくさんいるし、みんなすごくしんどそうだった。夜10時くらいまで残業しているから抵抗力も落ちているはずだ」
ステージ上のボーカルが叫び始めた。
「ハハハッ、今更気づいても遅い!お前達はコロナウイルスですごくだるくなるのだ」
バンド女子達が怯え泣いている。
「畜生、悔しいぜ。俺が何をしたって言うんだ。俺も街に出てコロナを撒き散らしてやる。なんで俺たち若者ばかり損をするんだ。多すぎる老人を支えるために将来もらえない年金を納め、高い消費税を払い、奨学金の利子に苦しみ、子育ても満足にできない社会で、円周率だってまともに教えてもらえないんだ。
そうだ、思い出したぞ。俺も元々はバンドマンだったんだ。一年以上自粛を続け、ついこの間にはソーシャルディスタンスに配慮したイベントとして区民ホールでのライブを準備していたんだ。座席配置や人数も考慮して出来る限り蔓延防止を心がけていたのに、突然の緊急事態宣言で会場が使用中止になったんだ。俺はそのショックで記憶を失い、延々とアマゾンプライムビデオを見ていたんだ。
畜生、オリンピックやるんだったらバンドだってやらせてくれたって良いじゃないか。百合子め。
この弱者へのいたぶりが…これがきさまら人間の正体か!地獄へおちろ、人間ども!
こうなったら、どんどんコロナを撒き散らしてやる。俺は…俺はコロナマン。役に立たない老人たちを始末して、少子高齢化を解消してやる。」
「ククク…それでいいんだ、明。俺の思い通り、人間への憎しみからお前はコロナマンになったんだ」
明はコロナを撒き散らそうとドアに向かって行った。だがそこに光り輝く見覚えのある姿を見つけた。
「あれは…おばあちゃん?」
「あれ、ここはどこだろうねえ」
「おばあちゃん、俺、明だよ、わかるかい、おばあちゃん」
「明、どうしてこんな薄汚いハコになんているんだい?」
「おばあちゃん、でも、おばあちゃんはだって…もういないはずだ。どうして…」
「まさか…」了がつぶやいた。
「まさか、あのデスメタルバンドが大体同じような曲ばかり延々と演奏すると同時に、コロナによって頭が酸欠でボーッとしていることで、換気がしっかりしているとはいえ、この空間にいる人間全員が一種のトランス状態に陥り、その力が集中されることでイタコのような降霊条件を一時的に実現しているというのか!?」
「明、ダメだよ、ライブハウスになんて来ちゃ。悪い病気が流行っているんだろう?自宅待機していなさいってテレビで言っていたよ。家でEDMをお聞き。
ほら、おばあちゃんがアベノマスクをもらってきたよ」
「おばあちゃん…ごめん…俺、俺…俺がコロナマンになっても、俺のことがわかるんだね。」
「だれが明ちゃんのいうこと、うたがうもんですか」
「おばあちゃん!!!」
「何をしているんだ、明!そのババアにもコロちゃんをうつしてやれ!」
「いやだ!!!!!!」
明は了を睨みつけた。
「俺は…わかったよ。了。俺達若者にとって、老人は敵じゃない。本当の敵は、俺達と老人世代に断絶を産もうとしている、悪い人間たちだ。男と女とか、日本人と外国人とか、そうやって何でも区別して、お互いを憎しみ合わせようとする悪い奴らこそが本当の悪魔なんだ。街を歩いている知らない老人たちも、もしかしたら誰かのおじいちゃん、おばあちゃんかもしれないんだ。坂上忍とか、アルファツイッタラーこそがデーモンなんだ!!」
「そんな綺麗事、俺は聞きたくない!俺は電車で知らないおばさんにギターを背負ったバンドマンだからって汚物扱いされて悔しかったんだっ!!!!死ねっっっ明っっっ!!!」
「うおおおおーーーー!!!!!!コロナビーーーーーーーーーーームッッ!!!!」
明、了のそれぞれの両手から凄まじい光が放たれた。
気づくと明は病室のベッドにいた。
テレビが点いていて、人々が街に出て普通に生活している姿が映っていた。
「これは…?」
「気が付いたか、明。今りんごが剥けるから待っていろ」
「了。俺たちは一体…コロナはどうなったんだ。」
「コロナはワクチンの普及で収まりつつある。人間はコロナに勝ったのさ。本当に恐ろしいのはやはり人間だったな。」
「ワクチンだって?」
「ああ、あれから2年もの間、お前は眠っていたのさ。お前が寝ている間にワクチンも打っておいた。けっこう便利だぞ。5Gにも繋がるからこないだのauの事故の時も普通に通信できたし。」
「そうだったのか…」
「お前が寝てる間に色々あったんだぞ。美樹ちゃんとかマッチングアプリで知り合った10個くらい上のコンサルと結婚してこの前ベイビーもできてたしな。よく泣く元気な子だったよ。」
「マジか…
ま、マジか…
おれは、もうなにもな…」
「まあ俺らも言うてアラサーやしな、そろそろ真面目に将来のこととか考えた方がええと思うで。しょうみ、いつまでも遊んでられへんやん。お前もマッチングアプリとか始めたら?ポアーズとか結構ええで。俺もこないだ若い子と会って飲んだけど普通に楽しかったし。美容とか最近気使ってて脱毛とかハイフとかもやってみてるからか知らんけど普通にこの年でもいいね来るんよ。整形とかも最近全然普通になってきてるからやってみよかな思ってんねんよな。
じゃあ俺、彼女とデートだからそろそろ帰るわ。またな明」
「え、うん…」
誰も知らない 知られちゃいけない
コロナマンが誰なのか
俺はライブやるからライブマンです。
金曜だけど全身全霊で休みとるから君たちも直帰して満漢全席で見に来てくれ。待ってる。待ってるマン