たぺログ

Emily likes tennisという日本のバンドのドラマーが描く人間賛歌的なブログ

ベローチェの巣の下で

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うちの近所のベローチェの客の平均年齢は80歳を超えている。この前行った時は間違えて介護施設か精神病院に来たのかと思ったくらいだ。

なぜ精神病院かというと入ってすぐ目の前の老婆がレジでアイスコーヒーとコーヒーフロートを頼んでいたからである。アイスコーヒーとは冷たいコーヒーで、コーヒーフロートとは冷たいコーヒーにアイスクリームが乗っているものである。あなたの認識は間違っていない。

老化と発狂は紙一重である。なぜなら正常と異常が紙一重だからだ。「子供叱るな来た道だもの 年寄り笑うな行く道だもの」と言うが人生の中間地点の見えてきた俺にとってここは自分の未来予想図みたいな場所だ。中野を終の住処とした場合の俺の未来。This is ババア・ダブルコーヒー・シティNAKANO。笑えと言われても笑えない。

それに、そこまで狂った注文方法とも言えないかもしれない。一人で座ったため「ツレがいるのかもしれない」という一番最初の予測は外れたが、すごくたくさんコーヒーを飲みたくてアイスクリームはそんなに食べたくない状況ならばあり得ない話ではない。冬とはいえアイスクリームはいつ食べても美味いものだし、冬だからこそ腹を壊す危険があるからだ。そしてベローチェのアイスクリームトッピングは110円(税込)である。どんなアイスドリンクにライドンすることも可能なのだ。

または、少し安くコーヒーフロートを二つ食べる方法としての、こち亀などでやっていたチャーハンとライスのセット的な貧困チャレンジなのだろうか?限られた年金の知恵なのかもしれない。株で多くの貯金を失った俺は将来の先輩の行く末をじっと見守ることにした。

老婆は座ってすぐに、紙ナプキンをテーブルに広げ、コーヒーに浮かぶアイスクリームをスプーンですくって紙の上に取り出し始めた。そしてそこからアイスを食べている。もうダメだ。わからない。隣席の老婆Bはそれを見てあからさまに狼狽えている。よし、あれは正常なババア。

かくしてしわしわになった紙ナプキンとアイスクリームを食べる異常老婆のタイムアタックが始まる。しわしわの老婆はコーヒーを一杯目の半分だけ飲んだ後、立ち上がってトレーを返して退店した。タイムアタックは終わった。コーヒーは1杯半、アイスクリームは半分残っていた。老婆の目に映るリザルト画面は最悪なことになっているだろう。もしかしたら亡き誰かへの供物だったのかもしれない。ツレは幽霊だったのかもしれない。単純にもうキャパがわからないのかもしれない。実はものすごい金持ちでベローチェで贅沢をするのが趣味なのかもしれない。俺だっていつも自分のことは何もわからないので同じことだ。少なくとも俺の心に爪痕を残した老婆。

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他の老人たちも各々やりたいことをやっている。あちらでは老婆3人がお喋りをしている。主に1人が話していて他の2人は「まあ〜」「あらそう〜」などと相槌を打つのだが時々タイミングを外して意味不明なやりとりになってしまい「Bad!」などとリズムゲームのような表示が見えなくもない。そうか、ここは老人のゲームセンターなのかもしれないな。しかしお互いそんなに真面目に話を聞いてないので特に支障はなさそうだ。病気と旦那と葬式と病院とニュースと病気の話をしている。

 

最近ふと思う。コミュニケーションの目的は言葉の交換であって情報の交換では無いのかもしれない、と。

僕らは有用なことを話しているつもりで、前に進んでいる実感が欲しくて、分かり合える仲間を見つけたと勘違いしたくて、特別な誰かと意味のある時間を過ごしていることを期待して、話をする。そして永遠に分かり合えないことに気づく。それでもお茶を飲みながら一歩も歩み寄らずに話を続ける。また今度、とお別れをする。内容なんて、意味のあるやり取りなんて、成長なんて、本当は存在しなくて、その時間を過ごしているお互いがただ「私はあなたといることが楽しいんですよ」と確認し合うための作業なのかもしれない。

だから究極的には脳で一切の処理を行わず、「あらそう」「まあ〜」と脊髄反射的な反応のみで行う会話こそが無駄を排したコミュニケーションの完成形なのではないか。それは音楽に合わせて体を揺らすように。コールアンドレスポンスのある、ライブに近いような、一体感を優先した場。頭の中では「今晩の献立どうしようかしら」「腰の痛み酷くなってきたしそろそろ病院行ったほうがいいわよね」と別の検討をしながらマルチタスクおばあちゃんズは集合体としての調和を高めていく。こうして人間は全であり個となる。まさしくブラッドミュージック。人類補完計画の要だよ。

 

杖を横に置いた老人が一人で自己啓発系らしき本を読んでいる(老婆の反対語は老爺らしいが使われているのを見たことがない。歳をとると性別の判別は困難になるのでスチュワーデスがキャビンアテンダントになったように、老人でまとめた方がいいかもしれない。自動的に性差がなくなれば老化により多くの問題は解決するかもしれない。)。何か目標があるのだろうか。学び直したいのかもしれない。ぜひ年金や貯金で学費を納めてほしい。俺はもう金を払って大学院とか絶対行きたくない。あんな辛いところに行くのは金をもらってないと割に合わない。しかし孔子曰く五十にして天命を知るらしいから、その時点で健康じゃ無かったらなかなか人生の軌道修正って難しいよな、と思う。知ったところで答え合わせにしかならないのではないか。「あー俺の天命ってパン屋さんでこれまでに無いパンを発明することだったのか」と悟っても手がアル中でぷるぷるしていたら手遅れだ。いや、手遅れなんてことはない。アル中パンみたいなのが流行るかもしれない。110歳まで生きるならこの人は俺が生まれてから今までの時間をこれから生きるのかもしれない。何でもできるだろう。俺もやらなければ。何を?

ここにいる人間は皆、恐らく俺より寿命が短い。自助グループに病気のふりをして通ったファイト・クラブの主人公のように、俺は老人になったつもりで座って考えてみる。俺は何を後悔している?だが具体的な答えは見つからない。満たされているからではなく、やり直してもどうせ満たされない気がしているからだ。

 

そろそろ俺は帰ることにする。

ベローチェはとにかく安い。味はまあまあ。

アイスコーヒーは量が多いが氷も多いのですぐ飲み切れてしまう。そしてなんか濃い気がする。ドトール並みに濃い。

つまり最高の店だ。広いのも良い。電源も結構あるしよ。

 

俺はコミュニケーションでは何の情報も得られないと先程述べた。しかし、老婆は誰かに何かを伝えようとしたわけではなかったが、俺は「次来た時はコーヒーフロートを飲みたい」と思った。それは老婆の行動が起こした影響によるものだ。俺だけのインフルエンサー

 

SNSなど無くとも、人が人である限り意志は受け継がれていくのだ。伝えようとしなくとも、自ずと。それは固有周波数を持つ音叉が共鳴するように。

だが俺は何か残せるだろうか。そもそも何か残したいだろうか。人間なんて池に落ちた石のようなものだと思う(なんかこれ誰かが言ってた言葉な気もする)。売れない音楽も、遺伝子も、誰かの中の記憶に残る俺も、このブログも、その波紋がうっすら伝わっている間だけのものだ。

どうせ消える爪痕なら、できるだけ変な形のものがいい。見た人の皆が首を傾げるような。謎の壁画みたいな。

 

一人でベローチェに来て、若者を混乱に陥れる注文をする老人になる。俺もそうする。いやどうかな。

 

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後日来ました。うまかっ です。

美しき紅き(豚の)ラグウ

地球上の誰かがふと思った。

「最近、肉を煮てないなあ」と。

俺だ。

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かつてブログで書いたことがあったように俺は肉を煮るのが好きだ。肉を煮ることは自己承認そのものだ。

まずは肉を買う。肉を買うと決めた時、俺たちは既に満たされ始めている。

脂質の悪魔、豚バラ肉を買う。「だって俺昨日決めたから」と思えば昨日の自分が俺の罪を被ってくれる。

 

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また会えたね。meet meatだね。ミート・ミッキーのようだね、なんて。

いや、君はずっとここにいたんだよな。俺が君を忘れている間もずっとここで待っていたんだ。

ごめんな。

良いんだよ、といつもの笑顔で肉は言う。

 

努力しても報われないことがある。いや、そんなことばかりだ。勉強したのに試験に落ち、仕事で頭を下げても給料は上がらず、愛を伝えても返してもらえない。株で損する。

何もうまくいかないし、誰にも認めてもらえない。

何かを手放して、そして何も手に入れられないことがある。手から溢れ落ちていくものをぢっと見つめるだけしかないときがある。人はそんな毎日の中で自分を責めるのではないか。

 

「俺が悪いんだ」

「俺が間違っているか、足りなかったから」

「俺はいつもダメなんだ」

「俺は無意味な存在なんだ」

「俺が株なんか買うから」

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そんな時に肉を煮ると、肉はたいてい応えてくれる。「君は決して一人ではない」と。

上手く味が染みないこともある。時間もかかる。

しかし肉を煮ている時間は決して無駄にはならない。

肉はあなたが「煮た」という行為を全力で肯定し、その身を挺してその結ばれた実を味わわせてくれる。

 

俺はそんな簡単なこと、ずっと忘れていた。忙しいと、打ちひしがれると、人は忘れてしまう。

肉を煮るということ。

生きているということ。

いま生きているということ。

それは肉を、赤ワインに一晩漬けてから表面を焼き固めた時にしか出ない香りがあるということ。

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それは、にんじん、たまねぎ、セロリなどをみじん切りしてオリーブオイルで炒めたときの香味野菜の香りが俺の存在を赦してくれる気がすること。それはパクチーアガペーパクチーは今回使用しなかった)。

 

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それは100均のブンブンチョッパー。それはめっちゃ便利だということ。いっぱいブンブンするということ。ブルンブルンって音がチェンソーマンを生き返らせる時みたいで興奮した。俺は主人公だ。時には悪魔だ。俺は脂質の悪魔だ。


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そしてトマト缶は、カットよりホールの方が良いということ。なぜなら煮込むにつれてかつての姿を失っていくから。その輪郭が薄れ、汁世界との境目を失い、徐々に永遠に自己が滅びていく様を見ていたいから。

日は沈む時が、花は枯れる時が、月は欠ける時が、肉は腐りかけが、愛は終わる時が、犬は年老いた方が、火は消える時が、仕事は辞める時が、最も美しいということ。

 

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美味すぎてパスタ200g食べた。本当は1キロ食べたかった。

 

俺はかつてある街のイタリアンのランチでパスタを食べてその味が凄すぎて衝撃を受けたことがあった。ボロネーゼというと普通は挽肉を炒めて作るものだがそのパスタは肉の繊維が残っていて最高だった。しかしその店はランチをすぐにやめてしまった。そして俺はもう、たぶんその街には行くことはできない。

その街には想い出が多すぎるから。

そのメニューにはラグーと書かれていて、ふと思い出して調べてみることにしたのだった。

このパスタは、あの時の味に肉薄していたと思う。肉だけに。

 

ごちそうさま。

また会えるかな、俺が笑って言う。

会えるさ、もちろん。肉も腹の中で笑って言う。

俺たちは手を振って別れた。

 

俺はきっとまたここへ還って来るだろう。

そして当たり前みたいな顔でまた肉を煮るんだ。

 

それが俺と肉とのEternal(肉束)だし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

↓作ったのはこれです。

48時間かけたえぐい美味さの豚肉ラグーパスタがこちら - YouTube

 

幻のコールドチキンサンドイッチ

朝は早く起きてバンド練習へ向かった。不意に行きのバスの中で寝ぼけながらなんとなくスマホの家計簿アプリを見ると、「あれ?こんなに俺の貯金って減ってたの?」と気づく。

ノリで少し背伸びした家賃の家に引っ越し、ノリで買っていたアメリカの株価がジリジリ下がっていた上に、さらに円高とかいうやつで俺の貯金は明らかに目減りしていた。偉い人が「株なんて買って放置して気づいたときには上がっているものだからこまめに見るな」みたいな格言を残しているが実際には放置したら大変なことになっていた。人の言うことは信じないに限る。

貯金というのは意識すると急に不安になってくる。別に新卒の時なんて貯金0に近い状態だったのに、やはり「30代になったけどお金が貯まっていない自分」を意識すると俺のこれまで積み上げてきたものってなんだっけとなってしまう。お金を自分の価値基準にすると「年収の高い他人は俺より偉い」という明らかな負け戦が始まってしまうので「お金より大事なもの」というふわふわしたもので普段は自分を気持ち武装理論武装ではなくふわっとしたもの)していつもふわふわコーデで俺の中だけバトルに勝利しているのに、数字を見るとやはり狼狽えてしまうのだから金というのは恐ろしい。

練習ではボーカルがなかなか「恐竜がムカつくおっさんに頭突きをする曲」の歌詞が思いつかないと言っており(これくらいのネタバレはいいんじゃないでしょうか、どうですか)、まあ普通思いつかんわなと同情する。聖○新聞とか青汁CMみたいな感じですごいハートフルなドラマの最後にいきなりガ○ジャの宣伝とかしたら面白いですよね、などとちっとも面白くないアイディアを出したりしながらつつがなく練習は終わる。

帰り際にこないだ行った家族旅行のお土産を持ってき忘れたことに気づく。俺は普段お土産を買わないのでお土産を持ってくるという習慣がまだ身についていないのだ。

 

今日はサウナ友達との約束があり練習後は新宿のホームサウナに行く。しかしサウナの温度が85℃でぬるかったため、これまで何度か検討してきたが遂に「再訪なし」の烙印を押すこととなる。NO ととのい NO FUTURE です。サウナ友達は「あまりにぬるすぎて岩盤浴にいる感覚になったので全裸でいるのが恥ずかしかった」と分かりづらい不満を述べていた。

 

その後鳥貴族へ移動しキャベツと貴族焼きをもりもり食いながらメガハイボールを飲んでいると友達がある報告をしてくる。

これはプライバシーに関わることのためここは匿名性を考慮し、はっきり書くことにするが、子供ができたということであった。(彼は既婚者である。念の為)

「おめでとう!」と絶叫した俺はまあ正直俺の人生にはほとんど関わりのないことではあるが、なぜかほっとしたのでこういう時は普通の人間は何かするらしいなと思い、鳥貴族代を奢ってやることにした。株で貯金が減った話を散々したあとだったので心配されたが、「いつか破産したらお前の子供に返してもらう」と言っておいた。

ドトールでコーヒーを飲んで一日中血管を痛めつけた俺達は帰路につく。

 

家に帰って2時間くらい寝まくったあと俺は起きて自分がなぜかつらいことに気づいた。

今日は比較的というかここ数週間ではわりと充実した楽しい一日だったはずだ。まあ貯金が気づいたら減っていた的なことはあったが、これは出来事とかそういうものによってもたらされるものではなくいわゆる「漠然とした不安」みたいなものだなと思った。こいつは下手に忙しい時や困っている時などではなく、中途半端な幸せ、「ぬるま湯」の中にいる時にこそ湧いてくる感情だということはなんとなく気づいていた。こいつのことはよく知っているが対処法については酒を飲んでひっくり返るか、寝るしかないとわかっていた。酒はすでに飲んでいるのでまた使うのはあまりよろしくない。

俺はベッドの上で精神的にのたうち回ったあと、また二度寝しようとしたが寝れなかった。そのため本でも読もうかと思ったがこれもまた集中できなかった。映画の気分でもない。

俺はグーグルマップでカフェを調べてみた。もう22時前だったが夜中まで開いているカフェが徒歩圏内にあった。しかも最近できたという。夜に思い立ってカフェに本を読みに行くなんて、なんだかオシャレ味を帯びてきた。俺はボッサボサの髪のままカフェへ行った。

なんか趣があり環境音楽が流れているバーみたいなところで一瞬物怖じしたが店主がいい人そうだったので入った。

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古本屋で買ってまだ読んでいなかった本を持っていった。おかしなタイトルのこの本は短編集なのだが、実は「ライ麦畑でつかまえて」のキャラクターが出てくる話がたくさん載っていることを読んで初めて知った。まさに俺の今の不安に寄り添ってくれるような本だ。「ライ麦〜」の内容はあんまり覚えていないが、ひねくれた情けないやつがひねくれたことをずっと言っている本だった。作者の映画もこの前観たが、作者もひねくれていた。つまり「ライ麦〜」は半自伝小説らしい。持ち込みをした時に「この主人公は精神病なのか?」と言われて作者が落ち込む描写があって面白かった。

あとコーヒーがこれまでに飲んだことないくらい旨くて感動した。豆を買って帰った。

 

短編の中でコールドチキンサンドという単語が出てきて、俺は急にファミマのパリジャンチキンサンドが食べたくなった。しかしパリジャンチキンサンドはある時期からファミマで見かけなくなってしまっている。俺は帰り道に100円ローソンに寄った。すると奇跡的にフランスパンがあった。半額のレタスもあった。そして奇跡的に俺は最近ダイエットをしているので家に作り置きした鶏むね肉のチャーシューがあるのだ。こないだ買ったマスタードとカロリーオフのマヨネーズもある。

奇跡とは起きるものではなく、起こすものなのだ。

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めちゃくちゃうめえ。

 

そしてさっき見返して気づいたのだがコールドチキン「サンド」なんてどこにも書いてなくてただのコールドチキンという食べ物だった。俺は腹が減っていて幻覚を見たらしい。

不安は消えた。俺は正気に戻った!

おやすみ。

海鮮民主主義人民共和国丼

あるバンド練習の後。

俺が「腹減りましたね!」とわざとらしく言う。

バンドメンバーのみんなが「俺こっちなんで」とか「このあと用事が…」とそそくさと帰っていく。

 

みんな大人だから。

家庭とか、仕事とか、他のコミュニティとか、あるから。

俺たちが長年このメンバーでバンドを続けてこれたのも、プライベートの関わりの希薄さ、お互いに干渉しすぎないドライさ故であると思っている。それは俺たちを繋いでいる音楽へのストイックなモチベーションの強固さの証明でもある。「お前好きな人いるの?」とか、修学旅行の夜みたいに聞いたりしない。

だから俺はみんなのノリの悪さを責めることはしない。むしろその瞬間にこそ、バンドがこれからも継続していくであろう期待に安心感すら覚えるのである。

 

そして、俺の孤独のグルメの機会が現れたことに感謝もする。

孤独のグルメとは、孤独なグルメではない。食と向き合う俺が孤独であるという事実自体が俺がグルメであることを明示しているのだ。他者とのみでしか食を求めることの出来ない人間はグルメではない。それは食を他者とのコミュニケーションの道具としてしか認識していないことに他ならないからだ。人と食う飯は美味い。しかし食以外の全ての情報を削ぎ落とし食とタイマンで対峙することでしか見えてこないものがある。

俺、食、終わり。

他になにもない。

俺は寂しくなんかない。

 

俺は黙って歩く。当て所無くとぼとぼと新宿を歩いているとだんだん今何が食いたいのか見えてくる。俺は今何を食いたいのか?自分に問いかけることが一人飯において一番重要な時間であると常々思う。それは俺は誰か?という問いと同質のものであるからだ。とりあえず、で選んだ人気のラーメンの低温調理チャーシューを一口食った瞬間に「いや、俺が食いたかったのはしょぼい立ち食い蕎麦だったかもしれない」と後悔したことが何度あったか。しかし意識的にその問いを自分に投げかけることはとても難しい。俺たちは常に外部情報に思考を奪われている。YouTubeSNS、サブスクなど昔に比べて検索よりもサジェストされるものに時間を使う機会が増えている。それはかつてのテレビのようだ。口を開いていれば無限に物を入れられる状況では能動的に口を閉じて、ひたすら考えるのは難しい。だが統計学が導出した30代男性会社員一般の好みの型に自分を嵌めてばかりいると真に自分にとって価値のあるものには出会えない。今、Spotifiyにブランキージェットシティは無い。お前が今日ひろゆきのクソみたいなリール動画を見て失った寝る前の10分は明日のお前が寝たかったのに血反吐を吐いて我慢した10分だ。

 

意識高い系IT企業のエンジニアのように座禅を組み、瞑想する。そして呼び寄せる。食というストイックとは一見相反するような位置付けのそれを、俺は今無欲に追求しているという矛盾。

全てのジャンルの食物を頭の中に一斉に浮かび上がらせ、それらを順に咀嚼するイメージ。今この瞬間、宇宙にある食が全て目の前にある。食のサブスク。そしてその中で何度も選ばれてきた彼が今日もまた光り輝いている。

 

寿司。SUSHI。鮨。

いわずもがな。

当然の帰結

アンセムソング。

食界のミスチル

 

だがその隣に今日はもう一つの光があった。

海鮮丼。

 

コストパフォーマンスという忌々しい概念はしかし消費社会において常に付き纏う。

ちょっとでも安く美味いものが食いたい。

仮に昨日の夜、1杯600円のレモンサワーを何も考えずに飲んでいたとしても、今日のランチの数百円をケチりたいという情けない俺的感情がある。

昨日の俺、明日の俺、今日の俺、全員が別人だ。アイデンティティなど幻想である。

 

海鮮丼にワクワクしないとは言わない。

丼の上からWASABIを溶いた醤油をぶっかけるアナーキーな瞬間にしか生成されないドーパミンがある。

サーモンの脂やイクラ、ウニのように他エリアの味を侵食するようなネタが他のネタと悪魔合体し一時的に六本木の成金が食う品のないウニトロ寿司のようなものが擬似生成される。

だが基本的に「握る」という工数を削減した海鮮丼に求められるのはコスパ、あとは強いて言うならビジュアル的な「ヴァエ」くらいだと思う。

寿司のオルタナ。そう呼んだら海鮮丼は怒るだろうか。

 

だから俺は今日、金を選んでしまったのだ。言い訳はできない。

金がねんだよ。そう吐き捨てる。何がグルメだろうか。かねがねんだよ。呪詛のように呟く。ツイート。

 

海鮮丼は、ところがなかなかの値段だった。2千円超え。絶妙な価格。もちろん、たぶん回転寿司屋で何も考えずに皿を取れば簡単に超える金額だろう。だからこれは間違いじゃない。俺は払った。ウニも載っている。イクラも載っている。だから俺は悪くない。間違ってなんか無いよな、俺。その答えは風の中さ。

 

海鮮丼が到着する。俺はウニを見てああこれはがっかりウニだなと思った。風を見るまでもなく。

これは見るからにがっかりウニだ。そうするとだんだん何もかも悲しくなってきた。なぜか薄暗い店内とか、券売機の感じとか、新宿の汚い雑居ビルの感じとか。

 

わさびとか。

 

海鮮丼の葉っぱが載っているところはわさび置き場である。だからこのエリアにはネタがない。グラウンド・ゼロだ。だってわさびをどこかに置かないといけないんだからしょうがないじゃないか。そういう作り手の言い訳が聞こえてきそうだ。良いぜ別に、白い飯が見えていたって良いんだぜ。

だけどお前ら怖かったんだろ。

白い飯が見えていることが。

だからわさびと葉っぱで隠したんだろ。そうして知らないふりをしたんだろ。

なかったことにしたんだろ。

お前らはそうやってわさびで罪悪感を塗りつぶしたつもりかもしれないけど、もう32年生きてる俺はわさびじゃ誤魔化されないんだぜ。お前ら、ネタをちょっとでも減らしたかったんだろ。

金は大事だもんな。コスパは大事だもんな。

俺も金でここを選んだ。文句は言えねえよ。

俺はわさびを醤油で溶いた。そしてぶっかけた。甘い醤油もあったのでぶっかけた。そんでがっかりウニとかそういうのを腹に詰め込んだ。わさびが多くてツーンとした。

可もなく不可もなく!そういう言葉が浮かんだ。言わないでおくとしよう。

 

帰路。

「なあ、回転寿司に行きてえな。回転寿司に行きてえなあ。」

俺の中のジャングルの兵隊が一人文句を言う。

「うるせえ寝れねえだろうが黙ってろ!」他の兵隊が叫ぶ。

 

「回転寿司はさ、確かにいくら使うことになるかわからないよ。もしかしたら3千円いっちゃうこともあるかもな。いつも行くとこは一皿200円くらいするもんんな。でもさ、まあ、いいかって、帰ってる途中には忘れちまうんだ。

海鮮丼が悪かったわけじゃない、ただ、今日の俺の気分と低品質な海鮮丼の組み合わせがあんまり良くなかったんだ。新宿だし、そりゃ場所代とかもあるし、こんなもんだよ。

だけど、回転寿司、行きたいよな。

海鮮丼は普通の白米が良いけどさ、寿司は酢飯しかありえないんだよな。緑茶は粉だよ。たまにガリを食って少しでも満腹感を満たそうとするよな。サラダ巻きが3種類載ってる皿、邪道だけどちょっとお得な感じがするよな。トロたくも美味しいだよな。のり汁かあら汁か悩むよな。寿司って良いよな。」

気付くと、他の兵隊たちは黙って何も言わなくなっていた。みんな、それぞれの寿司に思いを馳せているから。

 

それぞれ一つのlife それぞれが選んだstyle

 

どこかからジャングルに鳥の鳴き声だけが響く。

明日で全てが終わるだろうと、皆気づいている。

だがそれでも、今日だけは、俺たちは

鮨の夢を見る。

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コロナもうすぐ治る

熱が出たりすると 気付くんだ 僕には体があるって事

バンプオブチキンはそう歌っているが実際のところ人間の体は熱が38℃後半辺りを超えてからはもはや気付くとかそういうレベルではなく頭痛が酷すぎて「あ〜〜〜ころす!ころす!」みたいなアメリカン・サイコなことしか考えられなくなるのが実際のところである。サウナのときは簡単に100℃とか水風呂17℃とか言うのに脳は普段より2℃程度温度が上がるだけで完全にぶち狂った夢をエンドレスで見せてくる。とても繊細なやつだ。

俺は先週の頭あたりでコロナになったのだが「あれ?なんか熱出てきたな〜」くらいの感じの37℃から数時間後には39.6℃までぶち上がりインフルやノロの時にお馴染みの意味不明の悪夢を見させられた。今回もたぶん最後まで合わない計算を徹夜でずっとやらされてる感じの夢だった。覚めたら内容は忘れた。

解熱剤で熱は2日くらいで下がった。それからは逆になんかエモい夢とか見るようになってあの時のあの人と昔行った旅行先で話していたら気づいたら相手が妹に変わっていて「俺コロナだからこんなとこいたらダメなんだよね」と言ったら「まあ今は良いんじゃない」と言われて良いのか…と思っていたら起きて、それからいやあんな場所行ったことないなみたいになったりした。夢は勝手に思い出を捏造したりする。脳が暇すぎてストーリーを求めている気がした。映画でも見るかと思った。

 

感染から10日間は家から出てはいけないので俺は久しぶりに完全在宅になっていた。

会社は、なんか病気になると「しんどくてやる気がないから仕事あんまりしません」でも許されるのでたまに病気なったほうが良いなとか不謹慎なことを思った。でも疲れてるは病気じゃないから疲れてるって言いづらいところがあるのでこれからは疲れてるをもっと数値的な指標とかで表すようにして「俺は働きたいんですけど疲れ指数が70超えてるから今日は有給取らないといけないんですよね」みたいに言い訳させてほしいなと思った。

 

ご飯は全部紙皿にサトウのご飯にレトルトとかそういうので食べるので作り始めてから食べ終わって片付けまでが10分くらいで終わる。最近まではタンパク質とかなんかそういうの考えてたけど諦めたら安いし早いし洗い物ないし楽すぎるな…と思う。時間がある。

誰かと話したいけど電話する相手もそんなにいないし喉がガラガラなので毎晩映画を見ることにしたのは理にかなっていた。土曜はだいたい寝てて、日曜はだいたい映画観てた。

 

けどよく考えたら新卒のときは俺は毎日こんな感じだった。

もっと新卒って友達と飲みに行ったりとかそういうのが楽しいんじゃないのか思うけど俺は今も使ってるプロジェクターで毎日家で映画か海外ドラマを観てた。今と同じくレトルトの晩飯食いながら。

 

俺は小学生の時に家に帰ると母に毎日「何したら良いん?」と聞いていたらしい。

晩ご飯までの時間。僕は何をして時間を潰したら良いんですか。

ゲームは1日30分。テレビはそんなに好きじゃない。

友達はそんなにいないし、外で遊ぶのは嫌い。

読書とか映画とかの趣味ができるまで俺はご飯とご飯の間の時間を埋めるすべを知らなかった。母は読書と映画を俺に薦めた。

小学生の時にもう人生が空いてるなら先が思いやられるというものだ。しかしありがたいことに見たい映画はまだまだ無限にある。

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最近もなんか無理やり習い事とか始めたりとか筋トレとかして退屈については頑張っていたけど習い事はもう通うのがめんどくさくなってやめてしまった。

ちなみに実は3ヶ月くらいカポエラ教室に通っていた。秘かにカポエラできるようになったら絶対面白いじゃんと思っていたけどやっぱ若干遠くてめんどくさいしコロナ的な心配もやっぱりどうしてもあるのでなんか行きづらくなった。てか暑いし。カポエラっていうのは逆立ちして人を蹴ったりする格闘技で本場のブラジルではカポエラで人を殺すマフィアとかいるらしい。気が向いたらまたやりたい。逆立ちわりと慣れてきてたし。でもなんか組み手みたいなのがあって俺は知らない人と向き合ってやるのが結構無理だった。よくテニスとか卓球とかも相手と向き合ってやるから無理な人いるらしい。

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バンドはちゃんとこないだドラムの録音とかしたからたぶんそろそろ音源とか作れるんじゃないかなと思う。たぶん…。

 

さっき数カ月ぶりに豆から挽いてちゃんとドリップコーヒーを淹れたらすごく美味かった。俺はコーヒーを淹れるのが上手い。コツはちゃんと計量すること、豆は冷凍しておくことだ。

映画を観ながらコーヒーを飲むとすごく静かだが寂しい感じがしない。

 

サリンジャーの伝記映画を観たのだが「ライ麦畑でつかまえて」を売り込んだら半自伝小説なのに「この主人公は精神病か?」と編集者に質問されるシーンが良かった。俺も小説家になりたい。小説は書きたくない。

あとU-NEXTの契約をしたらアダルトコンテンツのページがあって名前がH-NEXTだったのでちょっと笑ってしまって悔しかった。焼き肉とか食いたい。終わり。

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コロナマン crybaby

♪俺はダメだ ダメだ ダメだ

 俺は帰る 帰るマン 帰るマン

※この物語は不謹慎です。絶対に読まないでRTだけしてください。

 

※この物語は2年前に一度書き上げましたが作者が世間の状況とバンドメンバーへの迷惑を鑑みて発表を見送ったものの、もう何もかもどうでもよくなり加筆修正を行い発表するものです。

 

 

 

「急な誘いで悪かったな、明」

「構わないさ、了。しかし一体どうしたんだ。急にライブに行こうだなんて。今はライブハウスは危ないんだぞ。ニュースを見ていないのか」

 

暗い夜道をヘッドライトが照らしていた。

了の高級車は獰猛な獣のように唸り声を上げている。急なカーブでも全く速度を落とさない了の運転は、まるで目に見えない誰かから逃げてでもいるかのように明には見えた。

「明、お前は…悪魔の存在を信じるか?」

「悪魔だって?」

「ああ、悪魔だ。悪魔なんていやしないのさ。本当に恐ろしいのは人間の方だよ。悪魔ってのは人の心そのものなんだ」

「それって普通は物語の終盤の方に言うセリフじゃないのか」

了の運転する車は目的のライブハウスの前に止まった。

ライブハウスは想像通り、暗い森の中の古く寂れた恐ろしい洋館の地下にあった。

 

受付の男は顔面の殆どを入れ墨で覆われ、頭髪はほとんど生えていなかったが頭の中央に大きな釘が刺さっていた。

一言も発さない受付の男に無言で大金を払うと大量のビラとドリンクチケットを受け取った二人は重い扉を開けてフロアへと入っていった。

そこでは重低音が鳴り響き、気の狂った若者や目の虚ろなジャンキーたち、バンド女子たち、合わせて5人位が音楽に合わせて踊ったり座り込んでブツブツ言っていた。

 

「ライブハウスってこんなに客が少ないのか」

「平日だし、売れてないからな。今ステージに出ているのは俺の弟の友達がやっているバンドだ。」

「あれを見に来たのか」

「そうだ」

気がつくと明はすごくだるくなっていることに気づいた。

「おい、了、なんだかすごくだるくなってきたんだけど…」

「どうやら感染したようだな。それはコロナだ」

「な、なんだって?!だるいだけだぞ」

新型コロナウイルスに感染した人は、軽症であったり、治癒する方も多いです。国内の症例では、発熱や呼吸器症状が1週間前後持続することが多く、強いだるさを訴える方が多いようです。(厚生労働省のホームページより)

「そ、そんな…だが確かにさっき頼んだカルーアミルクの味がわからない。バンドマンがコロナを撒き散らしているというニュースは本当だったのか」

「いや、お前は在宅勤務を許されず毎日普通に電車で出勤しているだろう。ライブハウスより密度の高い空間にいたはずだ。そっちが原因だ」

「確かに每日咳き込んでいる人たちがたくさんいるし、みんなすごくしんどそうだった。夜10時くらいまで残業しているから抵抗力も落ちているはずだ」

ステージ上のボーカルが叫び始めた。

「ハハハッ、今更気づいても遅い!お前達はコロナウイルスですごくだるくなるのだ」

バンド女子達が怯え泣いている。

 

「畜生、悔しいぜ。俺が何をしたって言うんだ。俺も街に出てコロナを撒き散らしてやる。なんで俺たち若者ばかり損をするんだ。多すぎる老人を支えるために将来もらえない年金を納め、高い消費税を払い、奨学金の利子に苦しみ、子育ても満足にできない社会で、円周率だってまともに教えてもらえないんだ。

そうだ、思い出したぞ。俺も元々はバンドマンだったんだ。一年以上自粛を続け、ついこの間にはソーシャルディスタンスに配慮したイベントとして区民ホールでのライブを準備していたんだ。座席配置や人数も考慮して出来る限り蔓延防止を心がけていたのに、突然の緊急事態宣言で会場が使用中止になったんだ。俺はそのショックで記憶を失い、延々とアマゾンプライムビデオを見ていたんだ。

畜生、オリンピックやるんだったらバンドだってやらせてくれたって良いじゃないか。百合子め。

この弱者へのいたぶりが…これがきさまら人間の正体か!地獄へおちろ、人間ども!

こうなったら、どんどんコロナを撒き散らしてやる。俺は…俺はコロナマン。役に立たない老人たちを始末して、少子高齢化を解消してやる。」

「ククク…それでいいんだ、明。俺の思い通り、人間への憎しみからお前はコロナマンになったんだ」

明はコロナを撒き散らそうとドアに向かって行った。だがそこに光り輝く見覚えのある姿を見つけた。

「あれは…おばあちゃん?」

「あれ、ここはどこだろうねえ」

「おばあちゃん、俺、明だよ、わかるかい、おばあちゃん」

「明、どうしてこんな薄汚いハコになんているんだい?」

「おばあちゃん、でも、おばあちゃんはだって…もういないはずだ。どうして…」

「まさか…」了がつぶやいた。

「まさか、あのデスメタルバンドが大体同じような曲ばかり延々と演奏すると同時に、コロナによって頭が酸欠でボーッとしていることで、換気がしっかりしているとはいえ、この空間にいる人間全員が一種のトランス状態に陥り、その力が集中されることでイタコのような降霊条件を一時的に実現しているというのか!?」

「明、ダメだよ、ライブハウスになんて来ちゃ。悪い病気が流行っているんだろう?自宅待機していなさいってテレビで言っていたよ。家でEDMをお聞き。

ほら、おばあちゃんがアベノマスクをもらってきたよ」

「おばあちゃん…ごめん…俺、俺…俺がコロナマンになっても、俺のことがわかるんだね。」

「だれが明ちゃんのいうこと、うたがうもんですか」

「おばあちゃん!!!」

 

「何をしているんだ、明!そのババアにもコロちゃんをうつしてやれ!」

「いやだ!!!!!!」

明は了を睨みつけた。

「俺は…わかったよ。了。俺達若者にとって、老人は敵じゃない。本当の敵は、俺達と老人世代に断絶を産もうとしている、悪い人間たちだ。男と女とか、日本人と外国人とか、そうやって何でも区別して、お互いを憎しみ合わせようとする悪い奴らこそが本当の悪魔なんだ。街を歩いている知らない老人たちも、もしかしたら誰かのおじいちゃん、おばあちゃんかもしれないんだ。坂上忍とか、アルファツイッタラーこそがデーモンなんだ!!」

「そんな綺麗事、俺は聞きたくない!俺は電車で知らないおばさんにギターを背負ったバンドマンだからって汚物扱いされて悔しかったんだっ!!!!死ねっっっ明っっっ!!!」

「うおおおおーーーー!!!!!!コロナビーーーーーーーーーーームッッ!!!!」

明、了のそれぞれの両手から凄まじい光が放たれた。

 

 

気づくと明は病室のベッドにいた。

テレビが点いていて、人々が街に出て普通に生活している姿が映っていた。

「これは…?」

「気が付いたか、明。今りんごが剥けるから待っていろ」

「了。俺たちは一体…コロナはどうなったんだ。」

「コロナはワクチンの普及で収まりつつある。人間はコロナに勝ったのさ。本当に恐ろしいのはやはり人間だったな。」

「ワクチンだって?」

「ああ、あれから2年もの間、お前は眠っていたのさ。お前が寝ている間にワクチンも打っておいた。けっこう便利だぞ。5Gにも繋がるからこないだのauの事故の時も普通に通信できたし。」

「そうだったのか…」

「お前が寝てる間に色々あったんだぞ。美樹ちゃんとかマッチングアプリで知り合った10個くらい上のコンサルと結婚してこの前ベイビーもできてたしな。よく泣く元気な子だったよ。」

「マジか…

 ま、マジか…

 おれは、もうなにもな…」

「まあ俺らも言うてアラサーやしな、そろそろ真面目に将来のこととか考えた方がええと思うで。しょうみ、いつまでも遊んでられへんやん。お前もマッチングアプリとか始めたら?ポアーズとか結構ええで。俺もこないだ若い子と会って飲んだけど普通に楽しかったし。美容とか最近気使ってて脱毛とかハイフとかもやってみてるからか知らんけど普通にこの年でもいいね来るんよ。整形とかも最近全然普通になってきてるからやってみよかな思ってんねんよな。

じゃあ俺、彼女とデートだからそろそろ帰るわ。またな明」

「え、うん…」

 

 

 

 

誰も知らない 知られちゃいけない

コロナマンが誰なのか

www.youtube.com

 

 

 

 

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俺はライブやるからライブマンです。

金曜だけど全身全霊で休みとるから君たちも直帰して満漢全席で見に来てくれ。待ってる。待ってるマン

テセウスの俺

毎日毎日、僕らの細胞は生まれ変わり、僕らの体は作り替えられていくのに、なぜ同じままの自分である必要があるんだろう。どうせパーツを入れ替えるのなら、パソコンみたいにもっと性能が良くて、もっとかっこいいパーツにしたい。腕と足を追加して一人でツインドラムをしたい。いや、77ボアドラムを一人でやりたい。どんどん安くて、質の悪い模造品に変わっていく自分を見るのは苦痛だ。

だから40キロのダンベルを二つ買った。松本人志の顔を見ていれば明らかだが筋トレは抗鬱剤だ。

そうしてどんどん違うものに作り替えていけば良い。僕という、世界に一つだけの花の花びらを全部ちぎって、もっと素敵な花の花びらに差し替える。僕を毎日殺して、僕を新陳代謝して、今いる僕は一つ残らずゴミに出してしまえば良い。

そのゴミで昔の僕を作り直せるくらいに、全てすげ替えてやったら、僕はまるきり別の人間になっているはずだ。

それがアルティメットTドラゴンだ。

アルティメットTドラゴンは過去を振り返らない。それは無駄な時間だからだ。アルティメットTドラゴンは悲しまない。それは無駄な時間だからだ。アルティメットTドラゴンは執着しない。それは無駄な感情だからだ。

常に喜び、笑い、幸せで、満ちている。

それがアルティメットTドラゴンだ。

 

僕という存在が一個の作品で、それを作り上げるために日々生きているのに、なぜわざわざ何か自分とは違うものを創り上げる必要があるんだろう。人はみんな自分以外の何かを作らなければいけないみたいな義務を負わされているように見える。それは子供だったり、芸術作品だったり、仕事の成果だったり、肩書きだったりという形をとっている。

そんな義務なんてないと思いながらも、社会は何かを消費させ、何かを生産させようとする。君は絵を描くためにインクを買う必要がある。君は家族のご飯を買う必要がある。働く。そして金の無くなった俺にこう言う。「好きなことで、生きていく」。好きなことはお金を稼ぐことであったか。生きていくことがお金を稼ぐことだったか。俺の好きなことって、コーラの風呂に入る動画を撮ることなのかなあ。正しいワークライフバランスはワーク0、ライフ100だ。

この世のワークは全部ライス。俺が好きなのは、ただ生きていることだったよ。

数年前までは確かにそうだった。

それはノーマルTドラゴンだった頃の話。

 

何をしている時が一番楽しくて好きかを意図的に決められる薬が欲しい。仕事が好きになる薬を飲めば毎日仕事をして楽しくてしょうがない人生を送れる。何かで成功したいのならそれをやらないと我慢できないくらい好きになる薬を飲めば良い。何もかも中途半端なのは何もかもそんなに好きじゃないからだ。死ぬほど好き、それは苦しい。それは病気だ。俺は正常なんだ。

アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」という本にムードオルガンという機械が出てくる。それを使うと明るい気持ちとか寂しい気持ちとかに強制的に変えることができる。感情コントロールの機械だ。オルガンを使いたくないならオルガンを使いたい気分に変えることもできる。なんでそんな話をし始めたかというと俺が古典SFを読んだことあるのをアピールして「賢そう、センスがありそう」と思われたかったからだ。作者のディックはヤク中だから悪そうな感じがしてかっこいい趣味をしていると思われるかもしれない。

「そんな機械や薬で無理矢理作った自分なんて自分じゃない」と思われるかもしれないが、自分自身を規定するのは自分自身の特性ではなくて選択である、的なことをハリーポッターに出てくるダンブルドア校長が言っていたのを思い出してほしい。ハリーは魔法学校のクラスの組み分けを決める、喋る帽子に「お前は不良のクラス(ガチ人殺しの魔法使いとかを輩出してる)にも向いとるよ、入れたろか?」と言われたことをずっと気にしていて「俺って悪い人間なんかな」と校長に相談すると「そんなことあらへんで、お前は真面目クラスに行きたいって思ったんやろ、お前が何者かを決めるのはお前の能力でなくて選択やねんで!」と言われてハリポタする的なことがあったはずだ。なぜハリーポッターの話をし始めたかというとそういう子供向けの本とかから本質的ぽい引用をしたら「逆にジャンルとか絞らずに偏見なく学んでいる色んな知識のある賢いぽい人なんだな」と思われたら良いなと思ったからだ。

 

ところでヨーロッパの公衆トイレで部屋を出たら勝手に水が流れてトイレ内を清掃してくれる機械を見たことがある。急にこの話をしたのはヨーロッパに行ったことがある自慢をしたかったからだ。便器だけでなく、部屋の床ごと掃除してくれるのだ。 ノアの大洪水だ。僕も孤独死するならそういう部屋があると便利だろうなと思った。急に死ぬ話をして心配されたかったんだ。 全然死ぬ予定はない。それか、飼っている犬に食われる人もいるらしいのでそれもいい。犬好きアピールだ。嘘だ、そんなことは全然思わない。僕は死んだ後のことなんてどうでも良い。責任などない。野垂れ死ぬのがお似合いだ。

俺は地を這うTドラゴンだ。全然そんなこと思ってない。無難に生きたい。

 

俺は大人になったらどんなドラゴンになりたいのかな?

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先輩の結婚式に出席したらみんな元気でした。

みんな俺が見てないところで生きてたんだねえ。

「短歌をやっている」と言う先輩がいたので谷川電話先生の短歌が好きですと伝えた。歌人って先生呼びでいいのかな。

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ライブをやります。エミリーを見に来たと言ってください。

対バンは最高。

でも俺はエミリーしかやらないので。