たぺログ

Emily likes tennisという日本のバンドのドラマーが描く人間賛歌的なブログ

星の王子さまのキツネについて

たまに星の王子さまを読み返している。

 

星の王子さまを読んだことがあるだろうか?

星の王子さまにはキツネが出てくる。かわいいキツネ。名前はない。

こいつ。

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最初の翻訳の一人称は「おいら」。

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異常に耳と鼻のとんがったこいつは王子さまと友達になりたそうにこっちを見てくる。しかし今まで小さい星で一人ぼっちで生きてきて、メンヘラの薔薇としか仲良くなったことがないひきこもりの王子さまは「友達の作り方がわからない」とオタクみたいなことを言い始める。

 

かわいいキツネは「飼い慣らせ」と少し物騒なことを言い始める。(新訳だと「なつかせる」になっている)

しかしキツネは別に厨二病ではない。

 

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スピッツは愛はコンビニでも買えると言っていたが友情は買えないらしい。

現代風に言えば「急に距離感詰めてこないでね」という旨のことを言うキツネ。

なんだか人生経験豊富そう。

 

 

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習慣。

 

コロナになってからいくつかの習慣が失われてしまったと感じる。行ける場所や時間に制限ができて、いつもやっていたことができなくなると、いつもそこにいた人たち、あったものとのつながりも消えてしまったように感じる。

映画館では決まった時間に映画をやる。そこにはサブスクでは得られない、観に行った一日の記憶、映画と映画館への愛着が残る。

ライブも、日程は違っていても、いつものあの場所で、いつものようにお金を払い、たまに見るバンドを観る。そして行き帰りのついでに買い物をしたりご飯を食べる。ライブハウスへ行くということの良さはライブを観る以外の部分にもある。

 

僕は最近は習い事を始めたり、ジムに行ったり、映画館がまた開かれてからは新しい映画をなるべく映画館で観るようにしたり、新しい習慣を作ろうと努力し、少しずつ成功し始めている。

 

でも、2年くらいかな?有観客のライブはやっていない。僕はそんなに話す方ではなかったけど、一言二言交わす人たちとの短い時間があるかないかは大きな違いだと思う。ブログや曲の感想を、ネットでは聞けなくても直接伝えてくれる人たちがいた。コロナの前は毎月以上やっていたかつての習慣を今から取り戻せるのだろうか?バンドをやってる人たちも、お客さんも。それでも周りのバンドはどんどん復活している。僕らもまたやる予定だ。

 

宣伝です。

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ここから予約してください。

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だって来てほしいし。

 

キツネは最後に、星の王子さまで一番有名なあの名台詞「本当に大切なものは目には見えない」という秘密を王子さまに伝える。しかし、それに続けてあまり有名でない「君がバラを大切に思うのは、それに時間を費やしたからだ」ということも伝える。

「一度大切になったものには、永遠に責任を持つ」とも。

 

 

星の王子さま著作権が切れたとかで無料で読めてそんなに長くないので暇な時に読んでみてもらいたい。

https://www.kenkyusha.co.jp/uploads/suppl/id32745278/The_Little_Prince.pdf

 

でも、できたら本で読んでほしい。なぜなら挿絵がかわいいからだ。

そして旧訳で読んでほしい。なぜならキツネの一人称が「おいら」だからだ。

 

ちなみに、ラピュタの「君をのせて」の歌詞の冒頭部分は星の王子さまの文章からきている、と何かで読んだことがある。ハヤオ先生も好きだったんだね。

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結構後半にあるのだが、よければ探してみてください。

 

 

 

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こういうキノの旅みたいな話が好きな人にもおすすめ。

 

かつて猫を飼えなかった話

 

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部屋の掃除をしていたら、12年くらい前の写真が出てきた。

名前は みなみ という。

 

大学1年か、2年の頃、雨の日に自転車で大学へ向かっていたら、駐車場で散歩中の幼稚園児たちとその先生が集まって何かを見ていた。

先生は困った感じの声で何かを話しながらそのまま通り過ぎていったので「何かな?」と思って近づいて見たらぐしゃぐしゃのよくわからない塊みたいなのがあって、もっとよく見たら猫だった。

最初は死んでいるのかな?と思ったが少し動いている。ところどころ泥と、血の塊みたいな黒い汚れがあって毛もべとべとになっている。カゴに入れたら冷えて死んでしまうだろうと思って、雨ガッパを着ていたのでそのまま片手で抱き抱えて取り敢えず大学に向かうことにした。わりと冷たかった。大学に着く前に死ぬんじゃないか?と思って、自分でバカみたいだなと思いながら声をかけてやったら「ニャーニャー」とか細い声でちゃんと返事をしていた。顔を覗くと、痩せ細り過ぎて、目ヤニも凄くて、凶暴化したグレムリンみたいで子猫なのに全然可愛くない。

何度も生きてるか確認しながら15分ほどで大学に着いた。

 

どうしたら良いのかわからないし、ガラケーしか無いので調べる方法も今ほど無かった。大学は僻地なので子猫のミルクが買えるような場所は近くにない。コンビニくらいしかない。

とりあえずサークルの部室で身体を拭いてやって、サークルの先輩に連絡したら程なく来てくれてなんかお湯とか沸かしたりしてくれた気がする。俺はそれで安心して講義を受けに行った。

帰ってきたら「猫じゃん!」とほかの部員たちが面倒を見ていた。猫は風呂に入ったりたまに用を足して部室を異臭まみれにしたりした。

名前を付けよう、という話になって軽音サークルだったので誰かが「マフにしようぜ、ビッグマフだから!」とか言っていた。あんまりいい意味じゃなかった気がするけど、まあビッグになるなら良いだろうと思った。

 

大学にはなんか猫おばさんという人がいた。構内にはそこそこ猫がいて、そいつらの去勢とか餌やりとかをボランティアでやっている人だ。夜の餌やりの時間になるまで待って、猫おばさんに相談することにした。猫おばさんは「助けてくれてどうもありがとうねえ」と猫のお母さんみたいなことを言った。手足が脱臼していて、傷もあるからたぶんカラスに襲われたとかだろうと言っていた。猫おばさんは猫を無料で引き取ってくれて、病院にも連れていってくれると言った。

俺は猫が好きだが、当時は苦学生で3万5千円のボロアパートに住んでいたし、隣の老夫婦の部屋からは常にガラスの割れる音がしていた。大学とアルバイトの繰り返しで自分もギリギリ生存していたので猫を飼う余裕がなかった。

だから猫おばさんに「ありがとうございます。よろしくお願いします」と言った。

 

その後、猫おばさんはたまに近況を教えてくれた。大学の教授にもらわれていったらしい。金持ちの飼い主を見つけてくれてありがたかった。猫も幸せであろう。

後日、別猫にしか見えないまるまるとした美しい猫の写真をもらった。それが上の写真だ。

 

名前はみなみちゃんになった、と聞いた。

ビッグマフよりも可愛らしくて良い名前だと思った。

 

というわけで俺は一応、猫を一匹助けるお手伝いをしたことがある人間だ、ということをさっき思い出した。

今後は壁に飾ることにする。

 

 

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久々にライブあるのでぜひお願いします。

3/6日曜のお昼です。

予約はこちら。

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かつてヒザ猫を飼っていた話

こないだコインランドリーへ行った。

 

コインランドリーは殆ど行かないが好きだ。理由はわからない。

音楽が流れていてなんか面白い。できあがりを待つ間、飲食禁止とは書いていないのでパンをかじり、茶を飲みながらノマドワークしてやった。

映画とかのコインランドリーは出会いの場になるが、現実的には来るのは老婆ばかりである。それにコインランドリーで話しかけてくる人はちょっと緊張する。

 

俺は年に一度、でかい羽毛布団を洗うためにコインランドリーへ行く。でかい羽毛布団はコインランドリーのでかいランドリーにしか入らない。

俺は親が買ってくれたまあまあ高い羽毛布団を、大学1年の頃から12年使い続けている。

家賃2万のボロアパートで服が全部カビたときも、布団カバーはカビていたが本体は生き延びていた。

しぶといやつだ。一番長く使い続けている所有物はもしかしたらコイツかもしれない。

たぶん次が11年くらい使っているスネアドラムとフットペダルだろう。スネアは渋谷にサークルの先輩と買いに行ったのを覚えている。フットペダルは前任ドラマーがくれた。

どちらも大事に使っている。

 

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閉塞感を無くすためか天井が青空になっており刑務所を彷彿とさせる。

コインランドリーの前で猫がニャンと言って去っていった。

 

俺は予備校生に通っていた頃、ヒザ猫という猫を飼っていた。猫ではない。膝である。

自分の膝をさすって猫を撫でていると思いこむのである。気が狂っているのではない。

寂しかったのだ。

 

俺は大学受験で浪人が確定した時、落ち込むよりも「まあそうだろうな」と納得した。

なぜなら普通に手応えがなかったからである。

滑り止めもちゃんと調べていなかった。あまり大学受験に関する情報を知らず、考えてもいなかったのだ。

我が家で初の大学受験ということで親も注意しなかった。俺は長男だから。こんな長男の使い方、炭治郎が聞いたらどう思うかな。

 

それでも情けなさはあった。予備校に通うにはカネがかかる。そのカネを親に払わせるなんて申し訳ないという気持ち。予備校を選ぶ時、俺は背水の陣をしくつもりで高校時代の友達がいない予備校を選んだ。高校時代の友達は少なかったので簡単だった。

そして、誰とも話さないと誓った。予備校は遊び場ではない。学ぶ場所であり、誰かとおしゃべりなどをしている暇はない。友達など作っている暇があれば勉強をしなければならない。

そして、孤独に苦しんだ。

 

俺は猫が好きだ。飼ったことはないが触ったことはあった。柔らかいが、やはり動物なので肩の辺りにはゴツゴツと骨ばったところがある。俺はその感触を覚えていた。

猫を抱きかかえるように自分の膝をさすってみると猫を飼っている気分がした。猫ほどではないが若干、毛も生えている。俺は元々、昔からよく想像をする遊びをしていた。授業を全然聞かないでカツ丼を食べている想像をした。まずビジュアルから、口に含んだときの感触、味、匂いなどを丁寧に想像すると意外と満足する。外を歩く怪獣が街を破壊する。どんな見た目でどんな技があるか。ビルが一つずつ倒壊するところを順番に追っていく。この怖いクラスメイトが、嫌いな先生が、ひどい目にあって泣いたらどんな顔でどんな風な声で泣くんだろう、と想像する。

猫は俺が歩くところにはどこへでもついてきた。と言っても俺が行く場所は予備校しかない。駅のホーム、予備校の教室、帰り道にあるHMV。猫は俺がその時に思う通りの種類で、毛色をしていて、都合のいい時だけいた。

一度ヒザ猫の話を母にしたら爆笑されてメモしておくと言われた。心配して浪人のつらさをわかってもらおうと思ったのに全然わかってもらえず憤慨した。

 

数年後、嘘つきバービーというバンドが「ひざにペット」という曲を出したので、同じようなことを考える人というのはいるものだなあと感心した。

 

半年くらいして、俺は誓いを破り、予備校に話をする友達ができてからヒザ猫のことは忘れた。社会人となった今はあの頃と違ってカネがある。正直、いつでもカツ丼が食えるし、猫カフェにも行ける。(「いいかい学生さん、トンカツをな」のやつは「松のや」も含んでいいのだろうか?)職場に嫌いな人は、まあ、学生の頃ほど嫌いな人はいない。

 

だが、時々、どうしても手に入らないものがある時、頭の中で作り出すという手段があることを思い出す。

そしてそっとヒザを撫でると、ヒザ猫の鳴き声が聴こえる気がする。

カフェインフェルノ

コーヒー!飲まずにはいられないッ!

 

 

原初、人間が労働という地獄を作り出した時、ストレスとコーヒーが産まれた。それは光と闇であり、ピッコロと神であり、パンドラの箱の底に残った希望であった。狂った世界で正気を保つために僕らは黒く濁ったコーヒーを飲んだ。闇に打ち勝つための光もまた闇に彩られていた。

 

パンドラの箱の底に残ったものを災厄だと解釈する説もあるそうだ。Wikipediaにはそう書いてあったのだ。たしかに飲みすぎたコーヒーは俺たちの内臓に災厄をもたらした。さらに言うとコーヒー豆を食ってバキバキにキマったヤギが発見されたのがコーヒーの始まりとも言われている。それはuccのサイトに書いてあった。バキバキヤギの飼い主はカルディさんという名前らしい。へー。

 

ミクロに視点を移すと、私が気楽な大学生活を終え、社会人としての一歩目を踏み出した瞬間に目眩を覚えた時、その手を引いてくれたのもコーヒーであった。私は入社初日にして会社の研修のオリエンテーションで居眠りをし、新卒100人の中でも最速で怒られた完全に不名誉な記録を持つ。ちなみに健康チェックでの血管年齢は19歳で最も若く、これは唯一名誉なことであった。

このままでは最速でクビになると焦った私は朝ごはんの時に無料のコーヒーをガブガブ飲んでバキバキになることにした。俺はコーヒーに何度も助けられてきた。

 

その後、長い間コーヒーは俺にとっては眠気覚ましのための「きつけ薬」のようなもので特段美味いとかまずいとか考えるものではなかった。喫茶店はなんか雰囲気が好きだから行くくらいだった。

 

しかしある時引っ越した近所にでかいコーヒー豆屋があり、魔女のようなクールな婆さんからコーヒーの粉をなんとなく買って家で淹れて飲んでみたら美味かった。とても美味かったのである。豆を焙煎している間に婆さんがほらよと出してきたコーヒーは人生で一番美味かった。

それから数年、色々あって俺は遂にエスプレッソマシンをこないだ買ってしまったのである。

 

コーヒーは家で淹れると楽しい。

今はコンビニで普通に美味いコーヒーが飲める時代ではある。しかし、まあ趣味は多い方が楽しいということもある。いつも通り過ぎていたコーヒー屋さんとかをちょっと楽しみな場所にできる。というかそうやって無理にでもやることを増やさないと生きている理由が最近マジでよくわからない。自由すぎるオープンワールドゲームにすぐ飽きるのと同じ原理で、ポケモンマスターとか具体的な目標を掲げてくれないと人生の分岐が多過ぎる。しかもその割に、才能とか所持金とか能力とかで通れないドアが多過ぎる。虫取り少年はオーキドのコネがないからポケモンマスターにはなれない。

 

そこで、ケチで技術もなくてやる気もない、そんな俺たちでも出来る限りコーヒーを安く、しかしそれなりに美味しく家で淹れる方法を説明する。ちなみに俺はコーヒーに全くこだわりがないのでコーヒー好きオタクはこれを読んだらキレると思う。焙煎のこと燃やすとか説明するから。でもコーヒーとかラーメンとかサウナとか蕎麦とかすぐ奥が深いみたいな顔するけどヤバい薬の方が気持ち良いに決まってるからな、調子に乗るなよ。

 

まず何より近所でコーヒー豆を買う。最初は粉でいい。種類も適当にその店のブレンドみたいなおすすめのやつで良い。いやー、おすすめは良いよ、何も考えんでもそれを勧めた人の努力とか知識とかの蓄積を全部もらえるんだから。よく意識高いYouTuberが「本はすごい」とか言い始めるけど他人の言う通りにするの、それより凄いよ。だって生身の人間が教えてくれんだもん。脳死しようね。

ちなみに都内の23区内だとクソ高くて100g1200円する場合もあるが23区外の安いとこだと200g600円だったりするので23区外に住みてえとなる。

もし「どんなんが好き?」と言われても困るのでとりあえず「酸味が少ないやつで」、と言えば万人受けの味になる。店の人には「あー、スタバ厨ね」と思われるけど気にしない。俺なんかいまだにグァテマラしか知らんしグァテマラのこと上手く発音できないから。あと最初のころガマテラだと思ってた。

 

あと必ず店で焙煎してそうなところで買う。コンビニとかスーパーの、袋に入ってるやつとかではなくて、なんかコーヒー豆を専門に扱ってる感じの店だ。なぜかというとコーヒーは刺身と同じなので焙煎してから何週間も経つと美味しくなくなるのである。焙煎というのは豆を燃やすことである。燃やした当日よりちょっと寝かせたほうが良い説もあるが、そこまでは気にしない。あとそういう店は燃やしてる匂いがして良い。タバコと違って良い匂いがする。この歳になっても俺は水蒸気を煙と呼んで親に笑われる。

次に百均でもいいのでコーヒーフィルターとドリッパーを買う。これはロウトみたいなやつと紙である。形のタイプが合ってれば別に何でもいい(丸い円錐と平たいやつとかあったりするので注意)。しかし実はHARIOとかちゃんとしたブランドのやつでもドリッパーは300円くらいで買えたりするのでこの際Amazonで買ってみるのもいいだろう。百均のは単純にちっちゃいから不便だったりもする。だからさっき百均でも良いって言ったけどやっぱり百均で買うのはやめろ。百均で買うな。さっきの良い匂いの店でも買えるはずだ。

 

あとはマグカップがあれば基本的にはもう何も要らない。紙をロウトに取り付けて、とりあえず粉を適当にスプーンで山盛りとかを入れて、お湯を注ぐ。やかんでもポットでもケトルでもいい。マグカップ一杯になったら飲む。

そしたらなんか美味いはずだ。

 

たぶんコンビニのコーヒーより美味いかもしれない。カフェインが脳に充満し、気持ち良くなる。酸っぱかったら、豆の種類が酸っぱかった為なので違うのにするか、騙されて焙煎してから時間の経ったやつを買わされたということなので、訴訟を起こしてください。アメリカだと本当に訴訟をよくするらしくて友達の妹が留学中にいっぱい訴訟したらしいです。何事も経験です。

 

そして、あなたは毎日コーヒーを飲むようになる。家で手軽に飲めるのだから、コンビニに行く手間がなくてハッピーだ。そしてだんだん「あれ?今日、昨日より美味いな」とか「あれ?今日微妙だな」とか気づき始める。

 

そしてコーヒーの淹れ方について調べ始める。どうやら、コーヒーは蒸らしたほうが良いらしい。お湯を本気で注ぐ前に粉を湿らすくらいにして1分待ってからお湯を注ぐ。するとなんだか味が濃厚になった気がする。「の」の字に注ぐといいらしい。あとお湯は90度が良いのでケトルで沸かしてから放置したり水を足したりする。

また、粉の量をちゃんと計ろうと思い始める。

Amazonで買った1000円くらいのデジタルスケールを下に置いて置けば粉もお湯も入れながら測れて便利だ。

 

なんだかそれでも味が最初より悪くなってきた気がする。コーヒーは刺身だ、とこのブログの作者が狂ったことを言っていたのを思い出す。次からは冷凍庫に保存するようにしよう。すると、1ヶ月経っても大して劣化しないことにあなたは気付く。冷凍した粉は乾燥しているので常温に戻す暇がないなら解凍する必要はない。

 

いつも粉で買っているあなたは、そろそろ豆で買ってみたいという気になってくる。Amazonで探すと3000円くらいでもコーヒーミルが買えることに気付く。手回しは調整が出来て細かくしたり荒くしたり出来るが値段が安いやつは手が疲れる。電動は楽だが細かい調整は効かない。粒度は細かくなりすぎると苦くなるし、荒過ぎると薄くなる。YouTubeなどを見ると良い。

コーヒーミルを手に入れて豆を挽いて飲んだあなたは気付く。粉よりも劣化が遅い。冷凍して1ヶ月経っても、挽いたばかりの粉のように新鮮で、炭酸ガスが残っていてふっくらと膨らみ、良い香りがするかもしれない。

次からは豆でしか買わなくなる。

この辺りで既にインスタントコーヒーを飲み物として認識できなくなっている。泥水を飲んだ方がマシかもしれない。

 

家でコーヒーを淹れて飲むようになってから喫茶店には行かなくなるかというと、逆にいろんな喫茶店でコーヒーを飲んでみたくなり、浅煎りの酸っぱいやつが割りと悪くない気がしてきたり、コンビニのコーヒーが一周回って逆に飲みたくなったりする。

俺は凝り性ではないのでこの辺でめんどくさくなってもう何もしてないけど、さらに豆の種類に拘ったりとか焙煎度合いとか家で焙煎したりとかそういうのする人もいるらしい。あと先のほっそいヤカン買ったりとか。豆をピンセットで一個一個取り出してチェックしたりとか。

まあ細かいことなんか気にしなくて良いと思う。いろんな宗教とか病気があるから正しいやり方なんてたぶん無いんだよ。藤岡弘、のコーヒーの淹れ方見たことある?

 

どうだろう?だいたい知ってたわ、という声が聞こえてきそうだ。じゃあいつやるの?そのうちでしょ、そういう声も聞こえてくる。ブラック飲めないんだよね、そんな声も聞こえた。全て幻聴である。このブログを読む人が一人もいない可能性だってある。可能性は無限大だからだ。

 

ところでエスプレッソはもっと流行ったほうが良いと思う。エスプレッソはコーヒーとはまた違う、加圧するマシーンで淹れるコーヒーである。すごく苦くて、ちょっと酸っぱい。

何カッコつけてんだよ、と言われそうだがあれはカフェインの密度が高いので早くキマるから良いのである。レッドブルとか赤ちゃんのジュースだよ。

エスプレッソはイタリアンのランチとかで付いてくることがあるが、是非砂糖をザバザバ入れて飲んでみて欲しい。底に砂糖が溜まるのが正しい飲み方らしいです。血糖値の急上昇も重要なバキバキファクターである。エナジードリンクとかほぼ砂糖とカフェインだから。

また、今のご時世的にかなりきついが、もしコロナが明けたら(隠語)、酒を飲んだ後にエスプレッソを飲んで欲しい。不思議なことに、アルコールが7割くらい瞬時に飛ぶ感覚があってさっきまでヘラヘラしてたのに急に人が死んだみたいな顔になる。本当に合法なのか心配になる。そんで酒をまた飲むのがイタリア人の作法である。サイゼリヤでの死亡は保険適用外にした方が良いのではないか?

都内だとSegafredoというチェーンがよくあるが、一杯300円するし、試しに飲むならランチについてくるやつを飲むのがハードルが低くて良い気がします。

 

俺は家で飲むためにエスプレッソマシンを買いました。

 

とても嬉しいです。

早速飲んでみたら酸っぱくて、うーんやっぱり日常使いなら普通のコーヒーメーカーにしとけばよかったかな?と思っていますが、5万円したのでそんな気づきは殺します。

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たぷたぷやん

デロンギって仮面ライダークウガにいなかったっけ?

 

そういえばコーヒーにエスプレッソを混ぜるという、可哀想なニューヨークのブラック社畜が考えた飲み物があってレッドアイというらしい。目が充血するからレッドアイというのが書いてあって本当かはわからないけどこないだ飲んだら時間差で「チョエー」って声が出るくらいキマった。さっきからキマるってカッコいいと思って使ってんの?イキったオタクみたいでキモいんだけど。また幻聴が聞こえます。俺はこれから毎日家でこれが飲めるので嬉しいです。嬉しいのかな?わかりません。嬉しいってなんですか?僕はそれまだ履修していないので…。感情があって 悲しさはそれの 一部分だから 涙が流れる はずはない

 

じゃあ俺が上司とのウェブ会議の後、いつもベッドに横たわって目から出しているあれ

あれはなんだろな

なんだろうね

 

ラーメンとビットコインの話

ラーメンを食った。

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ラーメンを食うといつも、「ラーメンの麺って急に無くなるな」と思う。

意味がわかるだろうか?


どんなに大盛りでも、二郎とかですら、「あと3すすりくらい残ってそうだなー」と思ったあたりで急に0すすりになる。「えっ!?もう終わり?もうエンディング?あと具とスープだけ?!」ってなる。スープが透明だと気づくけど不透明だと気付かない。

最初、あんなにでかい口でモリモリ食っていたのが勿体なく感じる。

心の準備が欲しい。

もっと、「あと3口で無くなるから大事に食べた方が良いよ。胡椒で味変するなら今だよ。」とかAIとかSiriとかが自動的に教えてほしい。

終わりに近づいたら麺の色が途中から赤くなってほしい。レジのレシートみたいに。

 

焼き魚とかも、最初はでかい身の塊が沢山あって贅沢だが後半は最初あんなにでかい身を食ってたのが嘘みたいに小さいパーツしか食えなくなるからどんどん効率が悪くなってくる。白米の方が明らかに多くなる。デカい身だけ別に取っておいたら良いのかな?それは少しマナー的にどうかな。

 

そういえば何かで聞いたことがある。人間の感覚とか、自然のものは実は意外と比例とかより指数関数的なものが多いのだと。

比例はまっすぐななめの増え方、指数は「ノ」みたいにへこんだ増え方。

たとえば料理の味付けの塩とかも、ある程度までは全然わからないのに突然ちょうどよくなり、さらに加えるとすぐしょっぱくなってしまう。

 

レーザー脱毛も、なんか最初の数回はじゃんじゃん抜けるのに後半はあと少し残ってる状態がずっと続く。レーザー脱毛は自然じゃねえだろ。

 

まるでビットコインのマイニングみたいだ。

ビットコインも自然じゃねえだろ。

 

ビットコイン

俺はそれでビットコインのことを思い出した。

強引かもしれないね。まあ許してくれ。

マイニングのことはまあ、なんか調べてくれ。簡単に言うと採掘のことだ。ビットコインは掘ったら出てくるらしいよ。ビットコインが何かは…俺もよくわからない。大人のおままごとだよ。

 

俺の心の隅には例えるならば箱がたくさん置いてある。誰の心にもあるだろう。

それらは「いつか開けなければ」と思いながらも開けていなかったパンドラの箱たちである。

そのうちの一つの箱には「あの時のビットコインどうしたっけ」と書かれて封がされている。

他の箱については聞かないでくれ。

今日はその箱を開けてみることにした。

 

 

俺は2017年初頭にビットコインを買っていた。

ビットコインは当時、「なんかよくわかんないしギャンブルっぽい怪しいけど流行ってるやつ」みたいな感じで今もまあそうなんだけど今よりもっと危なっかしそうなものであった。

テレビCMとかもそんなにやってなかったと思う。たぶん。

俺も遊び半分、「当たったら遊びに使ってやろう」くらいの気持ちであった。

 

 

 

…なんかもっと長々と話そうかと思ったけどそんなに盛り上げて説明するほどの経緯もないし事実だけ淡々と述べることにする。

俺はビットコインを2017年の3月頃に1万5千円分買っていた。当時、1ビットコインは13万円くらい。つまり0.1ビットコインちょっとだけ購入したのだ。(ちなみにこの金額はビットコインの単位で10000000 satoshiというらしいよ。ふざけやがって)

ビットコインはその後、下げた。今思えばカスみたいな下落だったが確か1割程度下げた。俺はその時に、これ以上損してもアホらしいと売ったような気がする。

気がする…しかし、それは確信ではなかった。俺はその後ビットコインのことなど忘れて暮らしいていた。あれから4年が経った。ビットコインは紆余曲折ののちに急騰していた。テレビのCMでも芸能人がビットコインと連呼している。今の貯金額なら千円程度下落したくらいなら損切りしないだろう。だが2017年の俺にはまだそんなに貯金がなかった。投資も怖かった。一万円はふざけて遊びに使うよりは高い金額だった。

 

俺は今日、一縷の望みをかけて口座を表示してみた。

俺は…売っていた。ビットコインは60円分しか残っていなかった。

逃した魚のデカさを確認しても無意味なことはわかっている。だが俺はやめられなかった。パンドラの箱の底には希望があるのだ。この悔しさをバネに何か産まれるものもあるだろう。

 

1ビットコインは今、600万円になっていた。桁が違う。俺があの時ふざけて買ったビットコインを売っていなければ、なんと40倍になっていたのだ。(計算が間違っていたら誰か指摘してほしい。俺も信じたくない)

つまり…俺が逃した魚は60万円だったのか。それは人生を変えるにはあまりも少なく、しかし忘れてしまうにはかなり大きめのお小遣いだ。

俺の手元にはおそらく4年前は1.5円だったものが60円になって残っていた。すげえ。馬鹿野郎。

 

「投資の話をタラレバで語るのは最も愚かだ」と新卒の同期のパリピくんは言っていた。そんなことを言えば全ての人間にチャンスがあるからだ。こんな話、「エヴァンゲリオンの凄さに最初に気づいたのは俺だ!」「あのアイドルを最初に見つけたのは俺だ!」と競い合うのと同じようなものだ。でもビーストが勧めていたももクロが売れた時は素直に感心した。

ちなみにパリピくんの友達は仮想通貨の暴落で300万円くらい失ったと聞いた。よもまつだ。

 

まあでも、もし、あの時、調子に乗って有り金全部ぶち込んだお金が40倍になっていたら、俺は何を買いたいか?想像するのは楽しいことだ。俺はもう少しデカいアパートに引っ越すだろう。あとは…

あとは…

猫飼うかなあ…

 

 

No Reason

時は内向のさなか

 

かつて私が大学生だった頃、

若く、健康で、鬱屈として、

人間関係が適度に希薄な軽音サークルのぬるい居心地の良さに浸り部室でスーパーファミコンばかりしていたせいで半年間で24単位のうち22単位を落としていたあの頃、

大学の近くにある一軒の焼き肉屋があった。

今はもうない。

 

私の通っていた大学はかつてゴルフ場だった。駅から離れた辺鄙な丘の上にあり、生きていくには十分だが若い健康な人間が挑戦的な気力を失うには丁度いい程度の栄え方をしていた。

つまりクソ大学生を作るのに適した場所だった。

 

ほぼ24時間やっているが海水の味しかしない家系ラーメン屋

600円で小指みたいな大きさの豚の角煮しか出てこない癖に極楽みたいな名前の地獄みたいな居酒屋

ガスト

笑笑

 

笑笑で笑える自信がない

 

だが安くて炭水化物の多い弁当屋とか、好きな店もあった。

軽音サークルが贔屓にしている焼き肉屋もその一つだった。

適度に狭く看板も目立たないので奇跡的に同大学のテニサーとかもいなかった。文化系のサークルも。ていうか大学生が。

俺は何より同じ大学の人間がたくさんいる場所が嫌いだったのだ。

人間は自分に似ているものにこそ嫌悪を覚えるものだ。

人間はチンパンジーを恐れる。犬は恐れない。

 

我々は親しみを込めてその店名を短くセンザンと呼んでいた。

 

センザンはコストパフォーマンスに優れていた。

当時あまりに生活が苦しすぎて家賃3万5千円の家から2万円の家に引っ越した貧困状態の自分が焼き肉を食えた、という事実がその安さの何よりの証明だと思う。

適当加減もよかった。

親しみを込めて陰でセンザンのババアと呼んでいたそこの店主の奥さんは面倒くさそうに注文を取りに来る時以外は椅子に座ってテレビの相撲を見ていた。

帰り際にはサービスで切ったフルーツをくれた。「もう帰れ」という意思表示だったかもしれない。

 

我々は折に触れてセンザンを訪れた。

自分がサークルに入って最初の新歓ライブの後に行った打ち上げもセンザンだった。

(たぶんその時に一回エンリケ先輩にエミリー加入を誘われて断った)

文化祭の打ち上げもセンザンが定番だった。

 

 

狂乱のサークルライブの結果、客なのにOBが天井を貫通して部室が半壊した時、呆然としながら酒を飲み続ける部員を見回しながら「ここでだらだらやっている時間ほど無駄なことはない」と言う別のOB先輩について先に打ち上げをしたのもセンザンだった。

牛刺しを食って「鬼名盤じゃん!」とOB氏が言っている横で部室に残っていた人から電話がかかってきて、出ると、「騒ぎに乗じてやってきた学生自治と冷蔵庫の所有権について口論になり通報された為遅れる」と伝えられた。俺はだらだらすると肉を食い遅れるという学びを得た。

 

その時にも俺はカルビクッパを食ったのだ。

(天井を壊したのはもしかしたら違う日だったかもしれない。よく覚えていない。もう10年前の話になる。曖昧な思い出話で申し訳ないがかといって外出自粛で新しい記憶も更新されないので許してほしい。)

 

センザンのカルビクッパはクソでかい塊肉が入ったクッパだ。

サイズ違いがあり、スタバで言えばグランデにあたるカルビクッパ大を頼んで取り椀で分けて食っていた。

俺は〆にはカルビクッパを必ず頼んだ。絶対に頼んだ。カルビクッパを食うためにライスは限界の少し前で止めていた。ビビ麺も食いたい時は両方頼んだ。ビビ麺も旨かった。

普段まいばすけっとのブラジル産鶏もも肉と冷凍TV(トップバリュ)うどんしか食っていない貧乏学生にとって牛肉の塊は麻薬だった。サークルライブなど、所詮は同じサークル内のメンバーで見飽きたバンドの演奏を見せ合う自家中毒のようなイベントだが、それでも無意味な運動をした後に汗まみれで食う牛肉の塊と水分で膨らんだ甘辛い米のハーモニーは脳を直撃し、控えめに言っても最高だった。

この瞬間が永遠に続けばいいと思った。

だが永遠などなかった。

 

 

兆候はおしぼりだった。

ある時、センザンのおしぼりから異臭がした。

その日を境に、ランダムにおしぼりやライスやお茶から硫黄のような異臭がするようになった。最初はお茶の代わりに水を頼んだり、ライスを避けたりした。しかしそのエンカウント率は指数関数的に増え、無視できないようになった。センザンのババアも情緒がおかしいようだった。

そして終わりが来た。二度とセンザンの窓に灯りがともることはなかった。

 

 

「就職しないでセンザン2を作ろう」とか一緒に現実逃避じみたことを話していた先輩も就職していった。俺も大学院生になりいよいよ金がなくなって毎日冷凍パスタを食いながら教授になじられる日々に埋もれ、センザンの記憶は遠い彼方に消えていった。

 

 

 

先日、バンドのメンバーがツイッターに貼ったYOUTUBEのリンクを観た。

それは大学のサークルメンバー皆で文化祭の路上で騒音を鳴らしている映像だった。他の人がどういう意図だったかは知らない。だが俺は本当は調和などないのに、他の大学生が楽しんでいる雰囲気を醸している憎い下らない文化祭をできるだけ邪魔してやろうと思ってやっていた。気弱な暴走族とそんなに変わらなかった。

 

動画の中で今より痩せた俺たちは叫んでいた。

No Reason

No Reason

 

コカ・コーラのCMではなかった。

それはNirvanaの歌詞を聞き間違えて発した言葉だった。本当は

No recess

が正しかった。

 

Won't you believe it?

It's just my luck

No recess

動画は長かったので1分くらいで飽きて見るのをやめた。

 

 

 

 

今、俺は働いている。だからセンザンがなくても、ハナマサでデカい肉だって買う金がある。

圧力なべも買ったからカルビクッパだって作れる。

だからセンザンは俺の心の中にある。

 

だが、もう心の中にしかない。

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ウインターアゲイン

最近、区民プールに通うようになった。

 

俺はつい数週間前までは泳ぐのが苦手だった。

小学生の頃から、限りなく意識不明に近いプールといった感じで、カナヅチという程ではないが「溺れてもがいていたら気付くと25メートル先にたどり着いていた。あと少し遅れたら死んでいただろう」という往復しているのはプールなのか三途の川なのかよく分からない状態だった。プールなど近づきたくもなかった。

 

しかし、「ロバート秋山の市民プール万歳」で秋山が市民プールに行ってから消費カロリーより明らかに高いカロリーの焼きそば大盛りを摂取しているのを見て「俺も泳げるようになりたいし焼きそばを食いたい」と思うようになった。あと焼きそばも食いたかった。

ふと考えてみると、アル中だった祖父が健康だった頃はプールで1キロ泳いでいたのだ。頑張ってみよう。

 

区民プールは安い。1時間200円。水着の他には何も要らない。入会金も年会費も要らない。区民であれば利用できる。

区民(税)が生み出した福祉の極みだよ。

 

一方で金持ちはコナミスポーツクラブに金をぶち込むだろうが、どうせ多くの人たちは金を払うと満足し、めんどくさくなって通わなくなり、しかし辞めたら行かなくなると思って辞めどきもわからず養分になる(昔俺も似たようなことになった)。みんなの怠惰が一つになってコナミスポーツクラブはどんどんでかくなっていく。それもいい。俺は血税を取り返す旅を続ける。ところでTSUTAYAの延滞金が定価を超えて何十倍も高くなるの、SF(すこしふしぎ)だと思ったことはないかな?

 

プールは温水だから今の時期でも心地よいのだが、冬に泳ぎたい人などいないのか大抵は空いている。

 

最初はちょっとしんどかった。横のレーンですいすい泳ぐ人とか、監視員の目が気になった。

Youtubeで正しい泳ぎ方とか見ても、「そもそも苦しくてそんなこと考えてる余裕ないんだっての」と思った。

だが数回通って溺れていると、なんだか息継ぎが楽になってきた。溺れ方も様になってきたようだ。休憩を挟みながら1時間に泳げる時間も延びていった。いつの間にか溺れなくなった。水を得たドラゴンだ。(初めて来た人へ。俺は30歳だが訳あって自分のことをドラゴンと呼んでいる。厳しいと思うが、慣れて欲しい)

 

まだまだ泳ぐのは遅いが、人と比べる必要などないと分かった。

なぜなら水の中は孤独だからだ。

静かで、誰にも邪魔されず自由でなんというか救われる。 
独りで静かで豊かで…

 

だるい仕事帰り、Amazonで2千円で揃えた水着とゴーグルとキャップを装着し、水の中に入った瞬間、外界から隔絶されたような感覚になる。聴覚だけでなく触覚も全て水に塞がれる。見える範囲も狭い。重力も弱い。呼吸も自由にはできない。さながら宇宙空間のようだ。貧者のVRだ。

さっきまでいたヨボヨボのジジイも、むちゃくちゃ水飛沫をあげるムキムキのおっさんも、脱衣所で香水を歌っていた若者も、めっちゃ厳しい上司も、続けたくない日々も、苦しいだけの思い出も、水に入れば泡とともに消える。俺はリトルマーメイドだ。いや俺は違うか。

 

ふと前方に目をやると時空の亀裂があった。それは黒く落ち窪んだ穴のようなもので、俺は即吸い込まれた。

 

 

 

気がつくと俺はプールサイドにいた。しかし、先ほどとは少し景色が違う。そうだ、これは祖父が泳いでいた地元のプールだ。たぶんさっき祖父の話をしたからだろう。「時空の亀裂に吸い込まれたのでたぶん過去か未来だろうなー」と思って掲示板を見たら20年以上前だった。

 

実家に行くと俺が受験勉強をしていた。正確に言うと机に向かってゲームボーイアドバンスで遊んでいた。「未来の俺だ」と言うと信用してくれた。「このままだとお前は受験に落ちるぞ」と伝えると「そんな気がしていた」と悲しそうな顔をした。

 

その時急に、「そういえば昔、未来の俺にこうして会ったな」という気がしてきた。

俺は自分に勉強を教えた。受験の時にもっと早く知っていたらと後悔した参考書も教えた。試験の問題は忘れていたし、実力で受からないと自分のためにならないと思った。あと、もう少し初対面の人と喋る練習をした方が良いと伝えた。腹筋ローラーも買った方が良い。アップルの株も買っておけ。

1時間経つと俺の体は透明になってきた。「じゃあな、頑張れよ」と言うと「1時間程度の知識で未来が変わるとは思えないな」と言われた。我ながら俺らしいぜ、と思った瞬間、視界が消えた。

 

 

元いた場所に帰れるものと思っていたが違ったようだ。俺は星ひとつない真っ暗な宇宙を漂っていた。

 

すぐに話しかけてくる声があった。テンポが良い。

「何が起きたか説明しましょう」

俺は「よろしくお願いします」と答えた。

 

あなたは過去に戻り自分自身に勉強を教えましたね。しかしその時、人生は誤差程度にしか変わりませんでした。受験に再度失敗したあなたは、少しだけマシになった頭でまた過去に戻り、勉強を教えることになります。前よりもあなたは教えるのが上手くなりました。さらに過去に戻り、さらに有能になったあなたはより良いアドバイスをします。100回繰り返したあたりで、あなたは受験に合格しました。

 

僕は一度しか過去に戻っていませんよ。

 

しかしその一度はループされるのです。過去の自分も同じ時代に来ればまた過去に戻るのですから。あなたが過去に戻った一瞬で、あなたの人生は多重に修正されました。

 

人生のフィードバックループってことですか。

 

どちらかというとPDCAサイクルですかね。過去の受験生のあなたは変わりませんが、その成長曲線だけがどんどん改善されていくのです。

あなたは前よりも良い大学に進みました。

あなたは前よりも良い仕事を見つけました。

あなたは前よりも良い恋人を見つけました。

あなたは前よりも良い友人を得ました。

あなたは前よりも「正しい道」を選びました。

 

効率改善、乱数調整。

そしてその循環は止まらなくなりました。あなたの意識の中では一瞬のことでしたが、既にそのループ回数は天文学的な値になっています。

 

まるでスピーカーのハウリングみたいだ。

 

あなたが途中で自分をアップデートすることをやめれば、この循環は止められたでしょう。しかしあなたはそれを望まなかった。あなたはより良い人生、もっと上の人生を望み続けたのです。

 

100万回目、あなたは大富豪になり区民プールの建つエリアを買い取りました。あなたは自分の脳の限界を取り払うため、過去のあなたの脳を外科手術しました。あなたは少しずつ人ではなくなっていきました。

100億回目であなたは人間の枠組みを完全に超えた存在になりました。

そしてある時、あなたは過去と現在と未来を行き来できる存在になりました。並行世界も見えるようになりました。時間と空間の距離はもはや意味を持たないのです。

 

クッキークリッカーみたいなインフレだ…

 

今のあなたは元々あったあなたの精神のほんの一部でしかありません。元のあなたの精神は既に神の領域、もはや宇宙そのものに達しました。ここにいるあなたはいわばその中に残されたわずかな人間の心です。そして私も、元あなたの一部です。あなたという人間に、この現象を伝えるために分化した、インターフェースのようなものです。

 

これ全部独り言ってことですか。じゃあタメ口でよくないですか。

 

本当は全てあなたも覚えているはずです。あなたは神になった瞬間、全能になったので。

 

僕はこれからどうすればいい?いや、どうなるんです?

 

あなたは何でもできます。意識が分離しているとはいえ、あなたは神の一部です。全ての事象を経験し、全てを得ました。あなたは自身が求める世界をあなたの中に創造しそこに住むことができます。なぜなら既にあなたはそれを経験しているからです。ただ、それを思い出すだけで良いのです。

あなたは酒池肉林の人生も、知的好奇心を満たす人生も、自己研鑽の人生も、人間ですらない生き方も経験しました。

今のあなたにとって、想像と創造は同一のものです。

あなたは何を、選びますか?

 

 

僕…俺は…

 

 

 

 

 

気がつくと俺はプールサイドに座っていた。監視員が休憩の笛を吹いている。俺はループが始まる前の、元の世界に戻っていた。

だがこれは正確には元の世界ではなく、俺が既に経験した記憶の一つでしかないのだろう。

 

それとも全ては妄想だったのだろうか?

それはわからない。

 

 

なぜ俺は何も変わらない世界を選んでしまったのだろう。

とにかく今は、すごく腹が減っていた。

焼きそばを食べたかった。

俺はシャワーを浴びた。隣で俺が神だなんて知りもしない青年が鼻歌混じりに着替えている。

 

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焼きそばは美味い。

俺は口いっぱいに豚ねぎ焼きそば目玉焼きトッピングを頬張りながら考える。

満腹になってから、もっと良い人生を選ばなかったことを後悔するだろうか?

 

いや、俺は全てを知ったのだ。俺は宇宙で、その一部なのだ。ただ、全てを忘れただけだ。

マヨネーズをかける。

それに、それはもしかしたら生まれた時からそうだったのかもしれない。

七味もかけた。 

 

だから大丈夫だと思う。

ウイスカッシュで流し込んで俺は会計をした。

 

 

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この前、2時間半くらい無料配信ライブをやりました。アーカイブで全部見れます。

間が空いているのでyoutubeサイトの説明欄のタイムリンクをクリックすると演奏のところだけ見れて便利です。


[配信LIVE] Emily likes tennis presents "笑(エミ)ROCK FESTIVAL2020 in EDO" ~ソニックマニア~