部屋の掃除をしていたら、12年くらい前の写真が出てきた。
名前は みなみ という。
大学1年か、2年の頃、雨の日に自転車で大学へ向かっていたら、駐車場で散歩中の幼稚園児たちとその先生が集まって何かを見ていた。
先生は困った感じの声で何かを話しながらそのまま通り過ぎていったので「何かな?」と思って近づいて見たらぐしゃぐしゃのよくわからない塊みたいなのがあって、もっとよく見たら猫だった。
最初は死んでいるのかな?と思ったが少し動いている。ところどころ泥と、血の塊みたいな黒い汚れがあって毛もべとべとになっている。カゴに入れたら冷えて死んでしまうだろうと思って、雨ガッパを着ていたのでそのまま片手で抱き抱えて取り敢えず大学に向かうことにした。わりと冷たかった。大学に着く前に死ぬんじゃないか?と思って、自分でバカみたいだなと思いながら声をかけてやったら「ニャーニャー」とか細い声でちゃんと返事をしていた。顔を覗くと、痩せ細り過ぎて、目ヤニも凄くて、凶暴化したグレムリンみたいで子猫なのに全然可愛くない。
何度も生きてるか確認しながら15分ほどで大学に着いた。
どうしたら良いのかわからないし、ガラケーしか無いので調べる方法も今ほど無かった。大学は僻地なので子猫のミルクが買えるような場所は近くにない。コンビニくらいしかない。
とりあえずサークルの部室で身体を拭いてやって、サークルの先輩に連絡したら程なく来てくれてなんかお湯とか沸かしたりしてくれた気がする。俺はそれで安心して講義を受けに行った。
帰ってきたら「猫じゃん!」とほかの部員たちが面倒を見ていた。猫は風呂に入ったりたまに用を足して部室を異臭まみれにしたりした。
名前を付けよう、という話になって軽音サークルだったので誰かが「マフにしようぜ、ビッグマフだから!」とか言っていた。あんまりいい意味じゃなかった気がするけど、まあビッグになるなら良いだろうと思った。
大学にはなんか猫おばさんという人がいた。構内にはそこそこ猫がいて、そいつらの去勢とか餌やりとかをボランティアでやっている人だ。夜の餌やりの時間になるまで待って、猫おばさんに相談することにした。猫おばさんは「助けてくれてどうもありがとうねえ」と猫のお母さんみたいなことを言った。手足が脱臼していて、傷もあるからたぶんカラスに襲われたとかだろうと言っていた。猫おばさんは猫を無料で引き取ってくれて、病院にも連れていってくれると言った。
俺は猫が好きだが、当時は苦学生で3万5千円のボロアパートに住んでいたし、隣の老夫婦の部屋からは常にガラスの割れる音がしていた。大学とアルバイトの繰り返しで自分もギリギリ生存していたので猫を飼う余裕がなかった。
だから猫おばさんに「ありがとうございます。よろしくお願いします」と言った。
その後、猫おばさんはたまに近況を教えてくれた。大学の教授にもらわれていったらしい。金持ちの飼い主を見つけてくれてありがたかった。猫も幸せであろう。
後日、別猫にしか見えないまるまるとした美しい猫の写真をもらった。それが上の写真だ。
名前はみなみちゃんになった、と聞いた。
ビッグマフよりも可愛らしくて良い名前だと思った。
というわけで俺は一応、猫を一匹助けるお手伝いをしたことがある人間だ、ということをさっき思い出した。
今後は壁に飾ることにする。
久々にライブあるのでぜひお願いします。
3/6日曜のお昼です。
予約はこちら。
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