OP
♪さあいくんだ その残業をやめて〜
テロップ「先週放送の予定でした『銀河労働999 第一話』ですが、巨大不明生物の出現で急遽放送中止となったため第二話からの放送となります。視聴者の皆様には謹んでお詫び申し上げます。」
【これまでのあらすじ】
未来の地球…
すべての人がやりがいを持ち、平等に働ける平和な社会「ワーク・ソサエティ」を地球政府が目指した結果、地球は15時間働かないと普通に暮らせない社会になっていた。
生体と機械の融合技術が驚異的に進歩した結果、すべての人間は生まれるとすぐに永遠に働くための機械化手術と同時にタイムカードを肉体に埋め込まれる。タイムカードは13歳になると発動し、毎日15時間以上働かないものは心臓に電流を流され殺された。
かつて地球には国という集まりがあったそうだ。
しかし日本という国以外の人間はすべて宇宙の星へと旅立っていった。日本人がまだ地球に取り残されているのは怠惰だったせいで働き足りなかったからだと僕らは教えられた。だがそれは「民衆を働かせる為の嘘の歴史だ」と噂されていた。かつて日本の首相は悪魔と契約して日本人を働かせるため死ねない体にしたという伝説があったが、機械にされ働く以外の選択肢を奪われた今の僕らに悪魔より恐ろしいのは自分の運命そのものだった。
僕の母さんは機械社長の業務効率化計画によってショベルカーにされてしまった。復讐のためにプラグスーツを着て母さんに乗り込み機械社長の家を破壊した僕に母さんは正気を失う寸前、「銀河鈍行」の話をしてくれた。
今では高価過ぎて金持ち以外は誰も乗れなくなった銀河電車。その終点にはベーシックインカムで生身の体の人間が毎日ネットゲームとスーファミ実況だけして暮らしている星があるという。
「そこに行けば無料で生身の体になる手術が受けられる。あなたのタイムカードも取り出してくれる。あなたは父さんの夢だった、ネオニートになるのよ、肉郎。」
ナレーション:
毎日テレワークができるセキュアパソコンとワンタイムパスワードキーを機械社長から盗み手に入れた肉郎。(電車の中で毎日15時間働くため)
何のあてもなく駅に向かう途中で出会った謎の女、デードルがくれた永久18きっぷ。
それは遠い昔元JR職員が起こした未曾有のハッキング事件「SUIKA割りの日」に作られた銀河に10枚しかないと言われる幻の交通系ICカード。
鈍行であれば無限に乗ることができるこの切符を手に肉郎はデードルと共に旅立つ…。
肉の体を手に入れ、永久に無職になるために…。
【本編】
「ねぇ見てよデードル、地球みたいにきれいな星だよ」
「あれが次の停車駅、自宅待機の星ね」
「あんなにきれいな星なのに自宅にいるの?」
「ええそうよ、あの星の人たちはね、100年間家から出ないでいるの」
「ひゃ、100年間だって?!僕だったら耐えられないなあ」
「フフ、そうね」
『この星の停車時間は4時間です』
「せっかくきれいな星だし、降りてみようよ」
「いいわ、行きましょう」
「本当に人っ子一人いなんだなあ」
「この星ではね、ある時に恐ろしい伝染病が生まれたの」
「伝染病だって?」
「そう、それはいつ感染ったかもわからず、いつ発病するかも、どんな症状になるかもわからない伝染病。ただ一つわかるのは、近づけば高い確率で感染するということだけ。
それ以来、みんなVRとドローン配達だけで人と会わずに暮らしているのよ。」
「かかると死んでしまうの?」
「それもわからないのよ。肉郎」
「なんだか変な話だなあ。それなら感染しているかどうかもわからないじゃないか」
「だから恐ろしいのよ」
「あれ、人がたくさん出てきたぞ」
「そんな…、こんなこと、100年近くなかったはずよ」
「あのう、大丈夫なんですか、外に出てきて」
「旅の者かね」
「そうです。100年ぶりに出てきたんですか?」
「そうだ。今日まで行きたい旅行も、買い物も、いろんなやりたいことも、全部我慢してきたんだ。」
「感染症は大丈夫なんですか」
「大丈夫じゃないよ」
「じゃあどうして出てきたんですか」
「今日は祭典があるんだ」
「祭典?」
「100年に一度の祭りなんだ。星中をあげてお祝いをする大きなお祭りなんだ。運動をしたり、大きい広場で火を持って走ったりするんだ。」
「何をお祝いするんです?」
「わからない。昔からそうしてきたんだ」
「それは大事な祭典なんですか」
「わからない」
「そんなことのために、皆で集まって大丈夫なんですか。せっかく、100年も、好きなことをずっと我慢して自宅謹慎してきたんでしょう」
「一番偉い人がやると言ったし、皆がそうしているから、しょうがないんだ」
「デードル、どんどん街に人が増えているよ」
「そうね、肉郎。このままでは私達も危ないわ。鈍行に戻りましょう」
僕たちは自宅待機の星を後にした。
列車の尾の先からどんどん離れて小さくなっていく美しい青い星を眺めながら、
一体どんなお祭りなんだろう、
これからあの人達はどうなるんだろう、そう考えていた。