たぺログ

Emily likes tennisという日本のバンドのドラマーが描く人間賛歌的なブログ

東京ボアダムに行って予備校生時代を思い出してしまった話

※案の定、気付いたら東京ボアダムのことはほとんど書けませんでしたが1千円で良いバンドが見れる、安くて多くて安心という感じのイベントなので是非オススメです。

また、久しぶりのフロア(客席でやる)ライブということでドラムの後ろからとか変な視点から見るとVR的なエンジョイも出来ると思います。今週の土曜日(6/17)です。

 

 

 

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 開放ステージというのもあるらしいので飛び入り出演もできるぞ。

 

ボアダムと僕

東京ボアダムと聞くと予備校に通っていた頃を思い出す。退屈(boredom)だったからではない。むしろ精神状態的には東京ジェノサイドとか東京サクリファイスって感じだった。

 

初めて東京ボアダムに行ったのは大学生の頃だ。「なんか楽しそうなイベントがある」と聞いてサークルの人達と一緒に電車で横浜から駒場までゾロゾロ見に行ったのである。

場所は日本の学歴ヒエラルキーの頂点・東大であった。イベントそのものはバンドも良いし、ステージが二個あって転換が無いのでスピーディで良いし、非常階段というノイズミュージックの怖いバンドもギターでお客さんの頭を叩き割るのかと思いきや優しくコツンとするだけだったので安全で良かった。良いことづくめのイベントであった。

しかし、インテリキャンパスが生み出す偏差値圧力にあてられた僕は、まだ大学受験戦争でのつらい挫折から立ち直っていないこともあり、鬱屈とした日々を思い出さずには居られなかった。

 

門から1歩キャンパスに入った瞬間、僕はただ一言、「マシンガンが欲しい」と呟いたという。その時まだ僕は哀れな敗残兵だった。「こいつら皆頭がいいんだな〜」と当たり前のことが恐ろしかった。

 

怒り 

ところで人間は怒ることに飢えている。

「怒れる」「叱れる」ことはエンターテインメントの一つだ。

「泣ける」「笑える」のように宣伝文句に使われることは殆ど無い(と思う)が、それは明らかにジャンルとして確立されている。

噂の東京マガジンという朝の番組では、休みの日に気まぐれでしか台所に立ったこともないような死に損ないの老人が、若い女が魚を捌けない様を撮影してひたすらけしからんと罵倒しふんぞり返るコーナーがある(「あちゃ~、それはサンマじゃなくてイワシだよ~こりゃダメだ」みたいなナレーションがいちいち入る)。

2chまとめでは他人の創作した不倫話を嬉嬉として読んだ後に「自業自得だ」と説教するスレ(風俗嬢に説教するのと根本は似ている)とか、老人の交通事故のニュースに「免許を取り上げろ」と罵るスレとかが乱立す。

駅前でおかしなデモ集団を見たことがある。アベ政権とかジェンダーとか年金問題とか多種多様な問題の書かれた旗を持った女性と老人達がそれぞれ異なる文言を叫び何かに抗議していた。平日の昼だったので中年男性はいなかったが本当に雑多なメンツであった。その人たちは、ただ「怒ること」という共通項だけで集まった集団に見えた。(だんだん何の話してるのかわからなくなってきた。残業続きで疲れているのかもしれない)

理不尽なこと/間違ったことを見つけると僕達はおもむろに近づき、鼻をつまみながらその匂いを何度も嗅ぎ、その度にわざとらしく顔をしかめる。

なぜか。

怒ることは楽しいからだ。

仮にそれが存在しない対象、仮想敵であっても。

怒ること(またはそのフリ)が出来なければ、人間はストレス(またはそう呼べない程度の不満)を感じ、解放することができないのだ。

 

かく言う僕にもかつて静かな怒りに燃えていた時期があった。それがまさに予備校生の頃である。

 

予備校

最初から大学受験には落ちる気しかしなかった。だが実際に落ちてみると失敗そのものよりも「これから勉強ばかりしなければいけない、バンドができない」という閉塞感と焦燥感が急に襲ってきた。

この考えは実際には正確ではなくて、周りで浪人に成功した人達は大抵が友達と適度に遊んでストレスを解消していた。しかし極度の焦りを感じた僕はそれまでの交友関係をほぼ断ち切り、誰も知り合いがいない予備校を選んでしまった。

 

僕は怒ることで、楽しむというよりは精神を保っていたのかもしれない。ほとんどそれは憎しみに近かった。受験に落ちたのは完全に自分のせいだ。だがそれは認めたくない。今の苦しみを社会のせいにすれば責任を取らされている自分は存在せず、被害者になれると思った。

論理的に考えれば自分が正当に怒ることのできる具体的な対象は何一つとして無かった。しかし僕はぼんやりした何かに向けて怒り続けた。

街で目に入る全てを憎んだ。笑顔を見ると苦痛になった。季節的な行事は全て唾棄した。受験生応援ソングとかも「他人事だろ!」と撥ね付けた。電車の中で乱暴にぶつかってきた人を睨みつけたせいで殴られそうになった。みんな嫌いだ。音楽を聴いて元気を出して、2chまとめを読んで(あるはずのない)暇を潰した。夜は床でのたうち回った。

 

待ち受けていたのは孤独だった。

 

朝、家を出て帰ってくるまでに「自習室借ります」以外の言葉を発しない日が続いた。ある日、自習室の蛍光灯にびっしり謎の毛(たぶんひげか鼻毛)がついているのを見て以降は自習室を利用しなくなったので、それからは本当に1日何も言わなくなった。親との会話が唯一のコミュニケーションだった。暇すぎて深夜にヤフーチャットで偉そうな中年ニートに喧嘩を売った。あとはずっと2chのまとめを見ていた。(その割に本とかゲームとか映画とかは基本禁止していたのでストレスが溜まった)

 

常に怒っている奴に話しかけてくるような人間はいない。元々から無愛想で話しかけづらいのに、常に怒った顔をしていて休憩中はなかなかイヤホンを外さないし外す瞬間に爆音のSUM41が音漏れする奴がいたら普通は話しかける気にならないだろう。周りはみんな高校生の延長みたいな感じで男女入り混じって和気あいあいと楽しくおしゃべりしていた。チャラいやつとかは普通にドライブして海に遊びに行くとか言ってた。俺は寝たふりをしていた。これは高校時代と同じだ。

 

だがある日、油断の隙を狙って小太りの男が話しかけてきた。

僕がいつものように激怒しながらガラケー2chまとめサイトを巡回しようとしたら、小太りの男が昨日のテレビを見たかと聞いてきたのだ。僕は、見てないと答えた。外で声を発したのは久しぶりだった。

 

地獄みたいにつまらないやつだったので彼のことは仮にヘルボーイと呼ぶ。ヘルボーイは昨日のエンタの神様がいかにつまらなかったか、漫才のネタを克明に再現しながら説明してくれた。全く伝わってこなかったが、その説明はクソつまらなかった。

なぜヘルボーイがこんなにも興奮して自分がつまらないと感じただけの話を説明しているのか理解に苦しんだが、彼もまた怒りを楽しむ人間の1人であることは間違いなかった。彼とはアジカンが好きという1点のみ気が合った。 

ヘルボーイとの話はこれでおしまいだ。あとは別に何も交流はなかった。たまに一緒に帰ったりとかもしたけど、全然そこから仲良くなったりしなかった。だってつまらないからだ。むしろそのだいぶ後、さすがに僕も孤独に耐えかねた頃に音楽に超詳しい友達が出来たので彼とはよく話をした。彼はipod classicの120GBが足りないと言った。彼はあらゆるジャンルのミュージシャンを知っていて、しかも感想聞いたら大体好きだと言った。彼ほどの超絶雑食野郎はそれ以降も見たことがない。歩くTSUTAYAみたいなやつだ。そういうことだ。

 

それ以上特に語ることを今は思いつけない。

浪人の恐ろしさとは無そのものなのである。 

あと、こないだ売れているバンドの人のブログをこないだ見たらすごい短かった。比べると僕のは長過ぎて読む気にならない。その割に書くと疲れるから損だと気付いた。

だから今回はこれで終わりだ。

 

 

今日はひさしぶりに定時に帰ることが出来た。

予備校という無間地獄から抜け出せた僕は、やはり今なお会社に怒り続けている。

そうしなければ、この理不尽な世界では精神を保てないからだ。